昭和天皇(上)

著者
出版者
講談社
価格
¥2,415

評価・詳細レビュー

(5.0点)
太平洋戦争が終わって28年後に生まれた私は、戦前の神聖視さ
れた天皇家も知らなければ、教科書の墨塗りに明け暮れた経験も
ない。自宅に御真影や写真集が常備されていることもなく、象徴
としての君主として受け入れてきた世代である。

特に思い入れがなかったにも関わらず、中学三年生の時に昭和天
皇の崩御という一時代の終わりを経験し、その時の新聞は未だに
保存している。歴史に興味を持ちはじめた頃だったので、何か感
ずるところがあったのだろうか。

私は国粋主義を気取るまでもなく、ごく自然に、この国に天皇家
は必要と考えている。日本建国以来の天皇家を廻る数々の陰謀や
血生臭い歴史は承知しているが、それを鑑みても、国の文化や風
土の一部として天皇家の存在が、我が国にとって欠くべからざる
ものと考える。

もっとも、そう考えるのは、私が日本人であるが故の思想の軛な
のかもしれない。本書を読むと、日本人であるが故の思想の枠組
みに絡め取られている自分を自覚せざるをえなかった。

それほどまでに、本書で描かれる昭和天皇の姿は日本人にとって
目を覆わしむるものがある。

上巻では幼少期からの昭和天皇の教育に焦点をあて、元首として
の帝王学と同時に、帝国主義、または軍国主義的な教育を受けさ
せられてゆく様子が描かれる。成人してから、昭和天皇の名の下
に発せられた、幾多もの布告が、あたかもこの時の教育が原因で
あるかのように。

上巻では太平洋戦争の開戦前夜までが触れられるが、欧州巡幸や
大正デモクラシーから五.一五、二.二六事件を経て日華事変ま
で、丹念に大日本帝国が進んでいった敗戦への足取りと、それに
昭和天皇が如何に積極的に関与したか、が検証されていく。

この本の記述を全て鵜呑みにすると、昭和天皇は間違いなく戦犯
として裁かれるべきと思わざるをえない。引用文献も偏りがない
ように思えるし、組み立てられる理論も峻厳なものである。日本
人が無意識に抱える擁護の情など、入り込む余地もない。

本書の論点に対する日本の碩学からの反論があればぜひ読みたい
ところである。



'12/05/28-12/06/06

参考になった人:0人   参考になった
ウィッシュリストへ追加
非公開
タグ

メモ


ライブラリへ追加
非公開
評価
 
読書ステータス
つぶやく
タグ

メモ


タグを入れることで、書籍管理ページで、タグ毎に書籍を表示することが出来るようになります。
また、スペース区切りで入力することで1つの書籍に複数のタグをつけることもできます。

※注意: このタグはあなたの管理用だけでなく、書籍自体のタグとしても登録されます。あなた以外の人に見られても問題ないタグをつけてください。
ウィッシュリストからライブラリへ移動
評価
 
読書ステータス
つぶやく