銀の砂

著者
出版者
光文社
価格
¥1,785

評価・詳細レビュー

(5.0点)
実は著者の事はほとんど知らずに本書を手に取った。著者の作風
やジャンル、年齢や性別すらも。

かつての流行作家・豪徳寺ふじ子の元で秘書をしていた珠美とい
う女性が主人公である。次々と浮名を流すふじ子の気まぐれに付
き合う有能さが却って仇となり、ふじ子の魔性に絡め取られてい
く。ふじ子に役者の恋人を寝取られ、それを機に独立し、かねて
からの目標である作家としてデビュー。という背景で本書は始ま
る。

ふじ子を廻る人間関係が丁寧に描かれており、登場人物はよく書
けている。ただ、メロドラマ的な前半4分の1の描写に少々ダレ
た感を抱いた。

しかし、続く章では、舞台は一転する。ふじ子が作家としてデビ
ューするまで、地方都市で姑にいびられた過去。なにがふじ子を
変えたのか。さらには珠美がふじ子に出会った経緯に章はシフト
する。ふじ子の不思議な魅惑に嵌っていく珠美。二つの章に共通
するのは、ふじ子も珠美も奇矯のところのない普通の女性である
こと。著者の女性作家ということを読了後に知ったのだが、それ
が納得できる女性の描写が見事である。

それでもなお、ここまで読んでいて、この作品が何を目ざしてい
くのか、正直予測が付かない。大方の小説には目指す結末が前半
で提示される。それは犯行や動機といったミステリーの要素であ
り、何かを成し遂げようとする主人公の意思であり、既知の歴史
軸に対する読者の知識である。

本書はこの点が非常に曖昧に書かれており、そのために前半4分
の1を読み進めるのに手が止まりがちとなる。

しかし、実は最初の部分でもふじ子の交流関係の描写の中で、何
度か触れられているのである。その事件に。しかし読者はそれに
気付かない。少なくとも私にはそうであった。実はそれが著者の
仕掛けた効果だったのかもしれない。

本書は後半の4分の3に入り、それまでのゆるやかな流れから急
に速度を上げる。その急激な速度アップには読者はついていくの
が精いっぱいかもしれない。あるいは戸惑い、あるいは茫然とし
て。しかし、本書の読後感にかなりのインパクトを与えているの
は確か。

冒頭にも書いた通り、著者の事を知らずに読んだのだが、この読
後感によって、他の作品にも手を伸ばしてみたくなった。

'14/2/21-'14/2/27

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