つぶやき

なんか重そうだけどそのうち読んでみたい

評価・詳細レビュー

(5.0点)
私の中でも読み通すのに苦戦した本の一つとして思い出されるであろう
本書。あまりこういう言い方はしたくないけれど、訳に問題があるよう
に思えてならない。
最初はこういう特異な文体を持つ著者なのかとも思ったが、どうにも読
み進めにくい。設定や話の進め方にかなりのわざとらしさと不自然さが
目立つのは元々の原書からしてそうなのか、それとも訳に問題があるの
か。トルコ語訳者に競争はないのかもしれないけれど、せめて英訳版を
参考にして頂きたかった。

読みにくさについての苦言はこれぐらいにして、本編に触れると、トル
コの北東部カルス(Kars)という実在の街を舞台に、イスラムと西洋文明
の相克を描き出した小説だ。主人公の名前を縮めてKaと記され、トルコ
語では雪をKarというらしい。訳者あとがきによれば、そのあたりには特
に意味はないとのことだが、そういう韻や言葉遊びが随所に散りばめら
れていると思われ、それが訳者や読者の苦労に繋がっていると思えてな
らない。

主人公のKaはドイツに政治亡命をして、10数年ぶりに帰省した詩人。
彼の西洋文明の空気を十分に吸った者から見た、トルコの半西洋で半中
近東といった独自の文化がKaとその遺稿を呼んだ友人こと私の視点を交
えて語られる。

イスラム原理主義者と西洋との折衷主義者などの争いが、雪に閉ざされ
たKarsで繰り広げられる中、登場人物が幾分芝居がかった口調で、トル
コの国の抱える矛盾に苦しみつつ、クーデター騒ぎで騒然とする町の中
で、愛や憎しみ、国家や民族へのそれぞれの思いをぶつけ合う、という
のが本書のあらすじとなる。

本書の真骨頂は、トルコという国の抱える問題点を上記のような形で鋭
く描きだし、熱く炙り出したところにあると思う。東洋と西洋の交差点
として栄光と挫折の歴史を持つ同国、最近ではドイツへの移民に活路を
見出そうとするも迫害にあい、かたや国内ではクルド人問題など自らも
民族問題を内包した国であり、イスラム教国でありながらヨーロッパ
の一員として振る舞ったりと、国として民族としてのアイデンティティ
確立に苦しんでいるような印象がある。
東洋と西洋のはざまでアイデンティティ確立に苦しむ我が国に対しても
他人事とは思えないところが、親日国として知られる所以ではあるまい
か。

本書を読んでいる中、年末に読んだ養老氏内田氏の対談で出てきたユダ
ヤ人とは何か、という問題を思い出さざるを得なかったけれど、本書で
もトルコ人とは何か、というテーマが底流に流れていると思われる。

冒頭に訳者から登場人物や単語、そしてトルコの背景について解説がな
されていることからも、トルコのそういった事情を知らずに本書を読む
となると相当読みづらいと思われる。

特に、詩人であるから本書中で19編の氏が重要なキーワードとして登
場し、19編を雪の結晶のごとく図示化までしていながら、肝心の詩の
中身については殆ど出てこないなど、文学研究家の研究対象となりそう
な要素もあるだけに。


'12/1/3-'12/1/17

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