硫黄島に死す (新潮文庫)
評価・詳細レビュー
Yoshikazu Nagai
156 册
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156 件
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0 件
(5.0点)
本書には7編の短編が収められており、そのうち5編が太平洋戦
争中の激戦に題材を採っている。いずれも当時の国際情勢や政治
に無関係の、前線で任務を全うするために挺身する人々の姿を様
々な角度から描くことで、戦争の意味を問うている。
太平洋戦争の戦記文学というと飢餓に苦しみつつ、ジャングルを
さまよう陰惨な印象が漂うが、本書は前線の、スポーツ選手の、
特攻隊員の、予科練生のそれぞれの戦中や戦後の人生を通して、
多様な軸から戦争を描いているのが印象を残す。
中でも表題作の「硫黄島に死す」は主人公に西大佐を据え、馬術
競技での栄光と挫折、生まれ育ちからくる軍の中での孤立など、
重層的な人物造形が物語に深みを与えている。たとえば、ロス五
輪での金メダル獲得から一転、ベルリン五輪で惨敗した理由につ
いても、ドイツ側の妨害工作があったにも関わらず敗因について
一言も弁明しない姿。硫黄島への移動航海中に起きた二人の死者
に対する限りない哀惜の念。
軍内で軽薄、気障と言われた主人公が、最期まで誇りと気概に満
ちた人物として、硫黄島の過酷な戦場でも死を従容として受け入
れる姿には、読者に戦争のやるせなさを否応なしに突き付けるも
のがある。
'12/03/25-12/03/26
争中の激戦に題材を採っている。いずれも当時の国際情勢や政治
に無関係の、前線で任務を全うするために挺身する人々の姿を様
々な角度から描くことで、戦争の意味を問うている。
太平洋戦争の戦記文学というと飢餓に苦しみつつ、ジャングルを
さまよう陰惨な印象が漂うが、本書は前線の、スポーツ選手の、
特攻隊員の、予科練生のそれぞれの戦中や戦後の人生を通して、
多様な軸から戦争を描いているのが印象を残す。
中でも表題作の「硫黄島に死す」は主人公に西大佐を据え、馬術
競技での栄光と挫折、生まれ育ちからくる軍の中での孤立など、
重層的な人物造形が物語に深みを与えている。たとえば、ロス五
輪での金メダル獲得から一転、ベルリン五輪で惨敗した理由につ
いても、ドイツ側の妨害工作があったにも関わらず敗因について
一言も弁明しない姿。硫黄島への移動航海中に起きた二人の死者
に対する限りない哀惜の念。
軍内で軽薄、気障と言われた主人公が、最期まで誇りと気概に満
ちた人物として、硫黄島の過酷な戦場でも死を従容として受け入
れる姿には、読者に戦争のやるせなさを否応なしに突き付けるも
のがある。
'12/03/25-12/03/26
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