フェルマーの最終定理 (新潮文庫)
つぶやき
数学が、いかにひらめきとかイマジネーションとかに関わるクリエイティブな分野であるかが、数式などを使わずに具体的に体験できる希有な書物。それにしても数学は音楽とならんで、ある種の共通言語だと思った。
評価・詳細レビュー
Yoshikazu Nagai
156 册
|
156 件
|
0 件
(5.0点)
2つ前の本のレビューの中で、新書で3冊の本を買ったと書いた
。その3冊目が本書である。そして読んでいて最も知的興奮を感
じたのも本書である。
本書は、題名の通り、フェルマーの最終定理の解決に至るまでの
360年間に亘る人類の英知の努力を細大漏らさず書き切った本で
ある。フェルマーの定理とは、3 以上の自然数 n について、
xのn乗 + yのn乗 = zのn乗となる 0 でない自然数 (x, y, z)
の組が存在しない、という定理である。
IT業界で飯を食っているとはいえ、文系SEである私にはさっぱり
理解できない定理である。そもそも何が難解なのかもよく理解せ
ぬまま、読み始めた。
しかし、本書の論の進め方は実に見事なものである。一読すると
回り道のような説明がかなり続く。それこそピタゴラスの定理の
意味から、論は起される。数学の門外漢には、どこがどうフェル
マーの最終定理につながるのかも不明なままに。しかしそれは、
読者に対してフェルマーの最終定理の難しさと、それをアンドリ
ュー・ワイルズ博士が解き明かすまでの道のりを理解してもらう
ために不可欠な箇所である。ここを急ぐと、本書の理解もフェル
マーの最終定理の理解も覚束なくなってしまう。このあたり、著
者は周到に本書の構成を練っている。いかにして読者にこの偉大
なる解決がなされたのかを読みやすく仕立てるか。その努力こそ
が本書の素晴らしさである。
私も初心者向けに数学の面白さを啓蒙せんとする書籍は何冊か読
んできた。面白い物もあったし、興味深く読んだものもあった。
しかし、残念ながらいずれも一過性のものでしかなかった。本書
は、この丁寧すぎるほど丁寧に書かれた歩みを通し、読者に対し
て興味を持って読み進めさせることに成功している。少なくとも
私にとっては、読み終えて一か月が過ぎても、興味を持ち続ける
ことができるだけの効果はあった。
正直言って読み終えた今でも、人に対し、フェルマーの最終定理
を説明することも講義することもできそうにない。しかし、日本
人数学者の谷山・志村両氏が立てた予想を通して、背理法の形で
フェルマーの最終予想が証明できる、という大枠だけは何とか理
解できた。
以下はWikipediaから引用した大枠の流れである。
1.まず、フェルマー予想が偽である(フェルマー方程式が自然
数解をもつ)と仮定する。
2.この自然数解からは、モジュラーでない楕円曲線を作ること
ができる。
3.谷山・志村予想が正しいならば、モジュラーでない楕円曲線
は存在しない。
4.矛盾が導かれたので、当初の仮定が誤っていることとなる。
5.したがって、フェルマー予想は真である。(背理法)から
このモジュラーという部分が未だに全く理解できていない。しか
し、少なくとも本書を通してからは数学の奥深さと、それを解決
せんとする人類の叡智の高みは垣間見ることができたと思う。ま
た、フェルマーの最終定理の解決にあたっては、アンドリュー・
ワイルズ博士を例に、個人の為しえることの限界を見せてくれた
ことも、本書から得られる大きな宝物である。幼少より抱いた夢
を持ち続け、それを共同研究という安易な道に頼らず、ほぼ独力
で証明一歩前まで迫ったということ。このあたり、人は外見では
なく、内面こそに強さを秘める、という私の予てからの想いに一
致するところでもある。
人類は何を目ざし、どこに向かおうとしているのか。それは経済
拡大でもなければ、領土拡張でもない。個人の欲望の追求でもな
ければ、自閉して沈潜するだけの修行の世界でもないだろう。私
が思うに、上に挙げた目標はあくまで個人的な問題である。人類
という種が目ざすべき目標にしたところで、いずれも個人や組織
の欲望の狭間で矛盾を引き起こすだけの結果に終わること自明で
ある。残念ながら。
では何を目指すのか。あくまで私見だが、科学の力によって無理
やりに地球という、人類という枠を突破するしか方法がないので
はないか。
フェルマーの最終定理から、どのような革新的な技術が生まれる
のか、私には分からない。しかし、問題を解決しようという意欲
と努力。この両輪を人類が持っていることを本書は知らしめてく
れている。この2つの力をもってすれば、遠い将来、人類が存続
し、我々の今の生の営みも無意味なものでないと、希望が持てる
のではないか。本書は数学を通した人類賛歌の書物でもあるのだ
。
'14/3/9-'14/3/12
。その3冊目が本書である。そして読んでいて最も知的興奮を感
じたのも本書である。
本書は、題名の通り、フェルマーの最終定理の解決に至るまでの
360年間に亘る人類の英知の努力を細大漏らさず書き切った本で
ある。フェルマーの定理とは、3 以上の自然数 n について、
xのn乗 + yのn乗 = zのn乗となる 0 でない自然数 (x, y, z)
の組が存在しない、という定理である。
IT業界で飯を食っているとはいえ、文系SEである私にはさっぱり
理解できない定理である。そもそも何が難解なのかもよく理解せ
ぬまま、読み始めた。
しかし、本書の論の進め方は実に見事なものである。一読すると
回り道のような説明がかなり続く。それこそピタゴラスの定理の
意味から、論は起される。数学の門外漢には、どこがどうフェル
マーの最終定理につながるのかも不明なままに。しかしそれは、
読者に対してフェルマーの最終定理の難しさと、それをアンドリ
ュー・ワイルズ博士が解き明かすまでの道のりを理解してもらう
ために不可欠な箇所である。ここを急ぐと、本書の理解もフェル
マーの最終定理の理解も覚束なくなってしまう。このあたり、著
者は周到に本書の構成を練っている。いかにして読者にこの偉大
なる解決がなされたのかを読みやすく仕立てるか。その努力こそ
が本書の素晴らしさである。
私も初心者向けに数学の面白さを啓蒙せんとする書籍は何冊か読
んできた。面白い物もあったし、興味深く読んだものもあった。
しかし、残念ながらいずれも一過性のものでしかなかった。本書
は、この丁寧すぎるほど丁寧に書かれた歩みを通し、読者に対し
て興味を持って読み進めさせることに成功している。少なくとも
私にとっては、読み終えて一か月が過ぎても、興味を持ち続ける
ことができるだけの効果はあった。
正直言って読み終えた今でも、人に対し、フェルマーの最終定理
を説明することも講義することもできそうにない。しかし、日本
人数学者の谷山・志村両氏が立てた予想を通して、背理法の形で
フェルマーの最終予想が証明できる、という大枠だけは何とか理
解できた。
以下はWikipediaから引用した大枠の流れである。
1.まず、フェルマー予想が偽である(フェルマー方程式が自然
数解をもつ)と仮定する。
2.この自然数解からは、モジュラーでない楕円曲線を作ること
ができる。
3.谷山・志村予想が正しいならば、モジュラーでない楕円曲線
は存在しない。
4.矛盾が導かれたので、当初の仮定が誤っていることとなる。
5.したがって、フェルマー予想は真である。(背理法)から
このモジュラーという部分が未だに全く理解できていない。しか
し、少なくとも本書を通してからは数学の奥深さと、それを解決
せんとする人類の叡智の高みは垣間見ることができたと思う。ま
た、フェルマーの最終定理の解決にあたっては、アンドリュー・
ワイルズ博士を例に、個人の為しえることの限界を見せてくれた
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を持ち続け、それを共同研究という安易な道に頼らず、ほぼ独力
で証明一歩前まで迫ったということ。このあたり、人は外見では
なく、内面こそに強さを秘める、という私の予てからの想いに一
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人類は何を目ざし、どこに向かおうとしているのか。それは経済
拡大でもなければ、領土拡張でもない。個人の欲望の追求でもな
ければ、自閉して沈潜するだけの修行の世界でもないだろう。私
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。
'14/3/9-'14/3/12
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