社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)

著者
出版者
岩波書店
価格
¥819
大衆の現実主義はどうか。この時期に少年時代をすごしたわたしは、大人たちのこういう会話を耳にする。たとえばある娘がなかなか結婚しないことについて、その親がいう。「この娘は理想が高いので」と。この理想とは多くのばあいその文脈から、要するに経済的・社会的地位と生活能力が高い男性のことである。生活者の日常の会話の中で「理想」という言葉の指し示す実質は、ほぼこのようなものでした。(「理想の結婚」、「理想の職業」、「理想の住まい」、「理想の炊飯器」)。現実主義者も、またその理想を追っていました。
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 現代の日本社会の骨格が形作られたのは、一九六〇年代から七〇年代の前半に至る、「高度経済成長期」です。
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われわれは現実の構造の中で、幾万人、幾百万人、幾億人という他者たちなしには、生きていけない。現代日本の都市に住む平均的な階層の一人の人間を考えてみれば、食料を生産する国内・国外の農民たち、牧畜者たち、石油を産出する国々の労働者たち、これら幾億の他者たちの存在なしには、一つの冬を越すことも困難である。この意味で人は、幾億人の他者たちを「必要としている」ということもできる。けれどもこのような、生存の条件の支え手としての他者たちの必要ならば、それは他者たちの労働や能力や機能の必要ということであって、何か純粋に魔法の力のようなものによって、あるいは純粋に機械の力か、自然の力等々によって、それが充分に供給されることがあればよいというものであり、この他者が他者でなければならないというものではない。つまり人間的な主体でなければならないというものではない。他者が他者として、純粋に生きていることの意味や歓びの源泉である限りの他者は、その圏域を事実的に限定されている。
これに対して、他者の両義性の内、生きるということの困難さと制約の源泉としての他者の圏域は、必ず社会の全域をおおうものである。
(p.176)
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