すべての美しい馬 (Hayakawa Novels)

(5.0点)
少年と青年を隔てるものがなにか、という主題について近代文学
では、幾多の作家が採り上げてきた。

大部分の人は少年から青年への移り変わりに気付かず、青年にな
って初めて自分が何を失い何を背負ったかを知る。
そして、社会に囲われ時代に追われる自分を突き付けられる度に、
こんなはずではなかったと精進を誓い、そこから逃れるために少
年期の自分が何者だったかもう一度思い返そうと文章に表したり、
読み返したりすることで、失われた過去を取り戻そうとする。

私などがそのいい見本である。

本書は少年から青年への通過儀礼を描く試みに成功しているばか
りか、国境越えと恋愛、そして荒野と都会との対比など、重層的
なテーマを詩的な文体の中に散りばめることで、見事な文学作品
として体をなしている。

広がる荒野、夜空に瞬く星々、素朴な人々、そして生命力の象徴
である馬。それら描写は少年のまっさらな人生のこれからの可能
性を想像させて余りある。

逆に、少年の農場が工場になる将来、粗暴な人々、新たな出会い、
そして別れは青年に降りかかる試練を暗示しているように思える。

本書では重要な分岐点として、主人公の燃えるような恋と、それ
がもたらす新たな苦難についても残酷なまでに筆を揮っている。
人生にとって恋が分岐点となる展開は、通俗的ではあるが、外せ
ない点ではないか。

読み終えた後、読者は主人公たちが少年から青年へと成長を遂げ、
これから彼らがどんな人生を歩んでいくのだろうと思わずにはい
られない。子供の時にあれほど憧れていた大人の世界を、大人に
なった今どう思っているか、読者の想像力に委ねられる部分であ
り、読書の醍醐味もここにあるのではないだろうか。

大方の人がこういった分かり易い通過儀礼を経ている訳ではない
けれど、自分の過ぎ去った成長の跡を思い返すきっかけには相応
しい作品である。

'12/02/24-'12/02/29

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