もうすぐ絶滅するという紙の書物について

つぶやき

t_yano 
これは欲しい。

評価・詳細レビュー

(4.0点)
 最近『記号の知/メディアの知』を読み返している。この本のAmazonのレビューに「簡単なことを理屈くさく長々と語って」いるという評価があって、なんでそういう人がこんな「高い」本をわざわざ買って(買ってないのかもしれないが)しかも文句を言うのかよくわかりませんけども、その考えはわからないでもない。リョサの創作論なんか読んだりしていると、確かに一々長ったらしいなと思わんこともないんです。
 まさにその『若い小説家に宛てた手紙』の訳者あとがきで、「レクトゥール」と「リズール」ということばがつかわれている。そのあとがきを引用しているページがあったのでそのままコピペさせてもらおう。
――
 A・チボーデは『小説の読者』(白井浩司訳、ダヴィッド社)の中で、読書人をレクトゥール(読者)とリズール(精読者)に分けて、前者が「小説に対して娯楽、気ばらし、日常生活の急速」しか求めない人たちであるのに対して、後者は文学が「一時的な娯楽としではなく、本質的な目的として存在し、他の種なる人間の目的と同様に、全人間を深くとらえる、そういう世界から選ばれるのだ」と述べている。
――引用終わり――
 この『もうすぐ絶滅するという……』も立ち読み(座ってたけど)したものなんですが、五冊くらいざっと読んで最終的にこれだけ買ってきました。
 実は前から気になってはいたんです。でもぜんぜんブックオフで見つからないし、別に専門書でもないわりに高けえし内容もよくわからない、冒険できないなと思っていたのが、たまたま本屋で見つかって、ちょっと読んでみたらかなりおもしろい。他を全部諦めて買ってしまいました。
 電子書籍は普及しても紙の本はなくならないだろうとエーコとカリエールは言ってます。飛行船やコンコルドを例にあげて、むしろネットのほうがなくならないとも限らないとも。ただし必ずしも紙がいいんだとか紙であるべきだというようなことではなくて、両方あればいいんじゃないかと。色々なメディアで読めるほうが疲れないからいいとか、けっこう適当なこと言っているんですが、実際に昔アメリカかなんかでそういう研究があったらしい。これは別の本、たしか安部公房が書いていたと思うんだけど、パソコンでは寝っ転がって読めないから紙の本はなくならないだろうというけっこうマジな研究結果でたそうです。
 電子書籍なら寝っ転がって読める。読めるけども、そのまま寝ちゃったらあぶないでしょみたいな。基本的にはビブリオマニアの雑談ですけども、ヘンに電子書籍を敵視していないというのがいいんですね。今日は帰りにブックオフで『機動戦士ガンダム画報』というのをつい買ってしまったんだけども、これはモビルスーツの紹介からプラモやゲーム、SDガンダム(OVA)についても軽く触れているんです。古い(十年前くらい)けどもかなり網羅的なカタログという感じで、この本もそういうふうに、どこをめくってもおもしろい。それでまあ高いけど、他の本を諦めてでもこれはほしいなというので買ってきた次第です。
 ウンベルト・エーコというのは記号論の権威ですけども、邦訳はないんだけどイタリアのほうでかなりくだらない本や美術品を集めて紹介するような本(『贋物戦争』)を出しているらしい。エーコはすごい読書家なんだけど、聖書なんか全部読んだやついるのか(つまり自分は読んでいない)ってぶっちゃけているし、子供のころ近所のお姉さんに本を貰ったとき「おもしろいから読んでいるのか、読んでいるのがおもしろいのか」と訊かれて正直後者かなあというふうに思ったという話などもある。
 前に紹介した『読んでいない本について堂々と語る方法』に重なるところがあるんだけども(ちなみにこの本にはエーコの小説『薔薇の名前』がでてくる)、だいたいそんなに全部読まなくたっていいと言っている。エーコはリズールかというと、そうでもないのかもしれない。
 カリエールという人のことはよく知らないが、とにかく二人ともくだらないものがすごく好きらしい。それで最初に戻ると、「簡単なことを理屈くさく長々と語」れるということは「くだらないもの」を不必要だと切り捨ててしまうある種の合理主義的な判断の否定でもあるんじゃないだろうかとも考えられるのだ。
 これ400ページ以上あるんだけど、ちょっと本が小さいうえに字が大きいから、まあちょうどいい長さかな。ちなみにこれ本の横が青く塗られていて、あのー、『AKIRA』の単行本みたいな感じになってる。普段はおれ装丁ってあまり気にしないんだけど、これは気になっちゃったね。ちょっと手に持って眺めてしまった。

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引用

「もしかしたら私の能力が少し足りないのかもしれないが、誰かが眠れなくて輾転反側する様子を語るのに、どうして三○ページも費やす必要があるのか私には理解できない」。これはプルーストの『失われた時を求めて』について最初に書かれた書評です。
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