ドストエフスキーの詩学 (ちくま学芸文庫)
モノローグ的な構想において主人公は閉じられており、はっきりとした意味上の輪郭で囲まれている。彼の行為も経験も思考も意識も、すべて彼はこれこれの者であるという定義の枠内で、つまり現実の人間として決定された自己イメージの枠内で行なわれるのである。…このような世界が成立するためには、確固たる外部の立場、確固たる作者の視野が存在することが前提とされる。主人公の自意識は…彼を規定し描写する作者の意識の鞘に収められ、そのうえで外部世界の確固たる基盤の上に置かれているのである。(p.107)