現代人にとっては荒唐無稽に見えるムウの道や失われた魂、斑点のあるワニの物語が、なぜクナの女性にとって、身体の器官の反応を引き起こすまでにリアルなものと感じられるのだろうか。それは、レヴィ=ストロースによれば、その物語がクナの女性にとって真実だからである。…それはちょうど現代日本の女性が出産を医学のことば、たとえば子宮口が全開大になったとか、陣痛が微弱であるとか、赤ん坊の旋回に異常があるなどのことばで理解しているのに等しい。…このように、出産はそれを理解することばや概念、それらを生み出す世界観の中で成立し、女性はそのようなことばを用いて自らの出産を経験している。ことばを離れて自分の体験を認識することは不可能であり、ことばや概念が出産を形作ることになる。
--出典:
妊娠と出産の人類学―リプロダクションを問い直す