生理的なプロセスになぜ医療行為を積み上げるのかと言えば、答えはむしろ逆であろう。出産が生理的なプロセスだからこそ医療介入によって医学の文脈にのせようとするのであり、そうすることで出産を医学的な経験へと作り替えることができるのである。医療は、現代社会の中で非常に大きな力をもつ文化と言える。それは、クナにとってコスモロジーが大きな力を持っていたように、現代人にとっては真実なのである。自然なプロセスがそれぞれの文化によって加工されるとき、現代社会の出産は医学の文脈で形作られ加工されることになる。それが可能になるのは、出産はどのような形にもなりうる自然(生理)のプロセスだからであり、文脈によって自由に形を変えうるものだからであろう。
--出典:
妊娠と出産の人類学―リプロダクションを問い直す