ナイフ (新潮文庫)
評価 : (4.0点)

表題作「ナイフ」を含む短中編作品集。
基本的には様々な視座からこれでもかという位、陰惨な「いじめ」を描く。

「ワニとハブとひょうたん池」は、女子のいじめをテーマに、
いじめる側といじめられる側の不毛な逆転連鎖なかで、
ある種、男らしく孤高を貫く女子主人公を描く。

表題作「ナイフ」は、3人の男の矜持と人知れぬ闘いを描く。

「キャッチボール日和」は親子という関係のなかで、
父から見れば子、子から見れば父、といった同質と思っていたが異質だった、
その現実を受け入れるプロセスを描く。

「エビスくん」は、複雑な愛情表現の中に生まれる男の友情を描く。
あとがきで明らかとなるが、著者の思い入れの深い作品。

「ビタースィート・ホーム」は、子供を挟み、親と教師の行き違い(もしくは行き過ぎ)を描く。


いつもながら、座りの悪さ、居心地の悪さ、後味の悪さを随所に散りばめながら進む。
この抉るような陰惨から、それでも眼を逸らせないのは、
著者がどこまでも性善説で、人を愛おしく見ているからだ、と気付く。


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