弟を殺した彼と、僕。
評価 : (5.0点)

ハッキリ言って、文章力は拙いし、たどたどしく、筆致も未熟。
構成はまだしも、ほとんどが作文の域を出ない力量である。
それでもなお、この書籍の伝える内容はあまりに生々しい。

著者は弟を殺害した犯人を心底憎悪する。
実際、殺人事件の被害者遺族となったことで、数多の不幸が彼を襲う。
容赦ないマスコミ取材や事故として支払われた保険の返還騒動、
それを返すためにサラ金への借金、逃避行動としてキャバクラ通い、また借金などなど。

まっさらの自分と強制的に対峙させられた彼は、
その過程の中で、加害者の極刑を望まなくなる。

その心性は、正直、理解しがたい。

矛盾に満ち満ちた、論理的に破綻を来たしている、彼のその心情こそが、
本当の被害者感情なのだ。
加害者を極刑に処して収まる程度の感情ではない。

何度も何度も出てくる「わからない」「しらない」ということばは、
徹底した一人称単数のときのみ、現出しうることばだと思う。


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