茗荷谷の猫 (文春文庫)
評価 : (5.0点)

理想からはかけ離れるばかりだし、大切なものは得るより失うことの方が多い。それらを取り戻せたはずの時間すら、日々を過ごすうちにいつ間にか過去になっている。そして、その都度感じる悲しさも、時がたてば忘れてしまうことをなんとなく知っている自分にさらにやるせなくなる。そんなエピソードがひたすら続いていく。
それでもこの作品の読後に悲惨さを感じないのは、話の登場人物全員が「生きる」ということに対してがむしゃらであり、読み手もその姿に「自分自身」を垣間見るからだろう。名作。


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