ポトスライムの舟
評価 : (5.0点)

芥川賞の受賞作には、ちょっと目を引くような小道具がアクセントに使
われることが多いように思う。本書においてはそれがポトスライムなの
だろうけど、あくまでその立場は物語の背景を彩るアクセサリー的な感
じ。物語の時間軸の流れを分かり易くしめすためだけにポトスライムが
使われているところに注目したい。

突飛な奇矯な目を引くような設定もなく、いたって常識的な日常の描写
だけでここまで読ませるというのも、著者の筆力によるものなんだろう
けど、ポトスライムを食べたり、世界一周のポスターや、奈良の仏像な
ど、物語世界の外を破るようなイメージの描写が合間合間に挟まれてい
ることで、単調に描いている日々の流れにうまく起伏を挟み込んでいる
からではないだろうか。

賞の選評で宮本輝氏が、清潔な文章と書かれていたけれど、賞狙いのよ
うな突飛な言動や設定に頼らず、ポトスライムをも物語のスパイスでは
なく、静物として置ききった著者の我慢の勝利といったところか。

本書には受賞作以外にも一編「十二月の窓辺」が収められており、その
生生しさは、著者の経験がかなり色濃く私小説的なまでに込められてい
るのではないかと思うほど。私もなんか他人事ではない気がした。逆に
それゆえに私には窮屈な作品に思えてしまったけれど、今の世間での企
業内人間関係を切り取るという意味では小説として役割を全うしている
と思う。

'12/1/21-'12/1/21


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