マルドゥック・スクランブル〈改訂新版〉
評価 : (5.0点)

SFを読まなくなってだいぶ経つのだが、面白い作品に巡り会えず
読まなくなったのではない。むしろSFこそは想像力の限りを尽く
して世界観を構築する刺激的なジャンルだと思っている。それゆ
えに読者にもその技術に裏打ちされた世界観を理解することが求
められ、私の未熟さでは太刀打ちできずに読まなくなったのが本
当のところである。

なので、独自の世界観の上に載る技術や環境を創造し、なおかつ
その環境に溶け込んだ登場人物の行動や心中を描ききった作品、
つまり読みやすい作品に出合えた時の喜びは格別である。

本書は上の条件を兼ね備えた、日本SF史に残る作品だと思う。

また、本書に現れる登場人物には、世界観にあった性格や状況設
定だけでなく、その設定の中でもさらに数捻り加えた巧みな人物
造形を施しており、世界観だけに頼りがちなSFとは一線を画した
複雑な筋運びが楽しめる。

私のようにSFを読まなくなったり、読まず嫌いな人は技術や世界
観の説明だけで読む気を失った人が多いと思うが、本書はそのあ
たりの配慮も行き届いている。筋運びに停滞を感じさせない工夫
がある。

見せ場であるギャンブルの場面などは、SF設定だからこそできる
圧巻の描写であり、SFであることの有利さを最大限に活かしてい
る傑作場面ではないかと思う。

'12/02/16-'12/02/22


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