シューマンの指 (100周年書き下ろし)
評価 : (5.0点)

あまりジャンル分けには意味はない、と頭では分かっている。分
かっているのに、無意識にジャンル分けをしている自分。小説を
読みながらそんなことを自覚するのもどうかと思う。

おそらくは作家についても同じことがいえるだろう。ジャンル分
けされたくない、と多方面にアンテナを呼ばす意欲を持つ作家は
多いに違いない。私はジャンルを極める作家と同じく、多ジャン
ルに進出する作家も応援したいと思う。

著者も純文学からミステリへの進出が一時目立ち、「このミス」
常連への道を走っていたようだ。が、今回は文体や語りに純文学
の抑えめのトーンを配し、しかも内部にミステリの謎をおくとい
う挑戦を行っている。

すっきりとした謎説きのカタルシスは、純文学の重厚さ、深遠さ
を出すのに相応しくない。表面の感情に訴えるのではなく、内面
の奥底に響く小説を。謎が説かれた充実感と奥底に響くというの
を両立させるのは難しいと思う。本書はそれに挑み、成功したと
言えるのではないか。

ただ、シューマンの各曲に通暁していないと、この小説の凄さは
味わいつくせないのではないかと思う。なぜなら私がそうだから
である。

もう一度それらの知識を得た上で、再読してみたいと思う。そう
することで、著者が意図する、内面に響く感情と音響の余韻が味
わえるかもしれないから。

'12/05/15-12/05/18


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