ローマ亡き後の地中海世界(上)
評価 : (5.0点)

2013年の最大の読書体験である、著者作の「ローマ人の物語」。
読み終えた後、後日談として本書があると知り、図書館で借りて
きた。

ローマ帝国瓦解後、ルネサンスの訪れまでの中世ヨーロッパを俗
に暗黒の中世という。少なくとも私の高校世界史レベルの知識で
はそうであった。では、何を持って暗黒というのか。イスラム文
明の進展に比べて停滞するヨーロッパの現状に対してか。それと
も・・・

本書を読めば、中世ヨーロッパに対する曇った知識が磨かれるこ
と請け合いである。

ローマ帝国の分裂とそれに続く北欧民族によるイタリア半島やア
フリカ沿岸部の覇権確立。イスラムの台頭と、国権による保護が
手薄になったことをきっかけとした、サラセン人による海賊産業
の隆盛。

つまり、暗黒の中世とは、海賊の跳梁による人々の拉致、奴隷化
に対して無力な地中海沿岸部の人々の嘆き。その絶望感が暗黒と
いう言葉となって後世に伝わったのではないかと思われる。そこ
には海賊の元締めであるイスラム文化に対して、有効な対策を打
てずに1000年の時間を過したキリスト文化に対する無力感もあっ
たことだろう。

本書で描かれる地中海世界では、アビニョン捕囚もカノッサの屈
辱も、宗教改革ですらも重きを置かれない。重点的に描かれるの
は、地中海を中心とした、イスラム文明とキリスト文明の衝突で
ある。主題を太い幹一本に絞り、それ以外の枝葉には迷い込むこ
となく進んでいく著述には、清々しい想いさえ抱く。

何ゆえルネサンスが興り、何ゆえ西欧世界がルネサンス後、現代
に至るまで世界の主勢力となったのか。そのあたりの歴史を理解
するためには、必読の一書と思われる。

'13/12/23-14/01/01


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