テレワーク―「未来型労働」の現実 (岩波新書)
Yoshikazu Nagai
156 册
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156 件
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0 件
(5.0点)
毎朝毎夕の通勤。世の通勤者にとっての悩みの種の一つである。
電車の中は立錐の余地もなく、その煩わしさは通勤の意欲を削ぐ
に十分である。前向きに考えたくとも、そのスペースはあまりに
も狭く、集中力を発揮して生産的な時間とするにはあまりにも雑
音が多い。
日々の務めの一つとして、諦めて耐え忍ぶのか。人間を練るため
の修行として無に入るか。他人を内心でこき下ろして鬱憤を晴ら
すか。あるいは日々の通勤をしなくてもよい仕事に就くか。車内
に充満する人々の想いは多様であるに違いない。
かつて、テレワークという概念が脚光を浴びつつあった。勤め先
は変えずに、自宅で作業の一部、又は全体を行うという仕事のス
タイルのことである。IT化の進展により、技術的にそれが可能と
なる態勢が整い、通勤ラッシュは過去の言葉に。私も当初はそれ
に飛びついた。総務省のパブリックコメントにラッシュ緩和策を
テレワークに絡めて寄稿したこともある。
だが、テレワークという概念が提唱され、大分年月が経ったが、
状況に変化はないように思える。テレワークの切り札として、一
時シン・クライアント端末も持て囃されたが、クラウド全盛の世
にあって、最近は影が薄い。
おそらくは第一次ベビーブーム世代の大量退職と、徐々に整備さ
れた交通網によって、混雑の重症化に歯止めが掛かったためもあ
る。それと、今のビジネス慣用が、テレワークを受け付けにくい
やり方になっていることも大きいのではないか。
本書では、その後者のビジネス慣用の面から、テレワーク幻想に
疑問を投げかける。まず、総務省がいうほどテレワークが浸透し
ていない現実を、統計数値から分析する。分析といっても難しい
数式が並ぶわけではなく、分析の条件の立て方に誤解を与えるよ
うなことを指摘する。次に、テレワークの形態を在宅勤務型、モ
バイルワーク型、在宅ワーク型、SOHO型の4つに分ける。その中
から本書の分析の対象として、SOHO型を除外する。
在宅勤務型については、実際の勤務形態を幾多の例と統計数値か
ら個別に論証し、実際は労務管理の及ばない、より残業を強いて
いる現状を指摘する。
モバイルワーク型については、製薬メーカーのMR職の例を挙げ、
自己裁量労働の長所に比べ、過酷な長期間労働の現実を示す。
在宅ワーク型については、電脳内職という言葉をあげ、労働に見
合わない賃金と、作業スキル以外にも統括、営業スキルなどを持
たねば高収入は見込めない欠点を提示する。
いずれの例も、成功例と失敗例を挙げてはいるものの、全体的な
トーンとしては、テレワーク幻想に冷水を浴びせるものである。
私としては、誠に残念なことに、筆者の論旨に賛成である。なぜ
か。私は、平日は常駐勤務、夜中と土日祝日にはSOHO型+在宅勤
務型として生計をたてている。また、2年前までは在宅ワーク型
の仕事も請け、私から協力頂く作業者の方々に作業を割り振る統
括作業も行っていた。つまり当事者である。当事者の立場として
は、本書の例証に頷けるところが多かった。むしろ、在宅ワーク
型では他の作業例を読み、大変参考になったほどである。
また、IT企業での常駐勤務を経験している立場からも、テレワー
クの普及阻害要因はいくつも挙げることができる。それはセキュ
リティの問題(コンプライアンス)ももちろんある。が、それだ
けではない。そもそも、業務要件を作業者間で共有するためには
、ディスプレイ越し、ネットワーク越しの作業では、共通の理解
を醸成することは困難である。少なくとも現在の音声やテキスト
のやり取りだけでは難しい。リモート操作による画面共有も、ネ
ットワーク帯域が不十分なため、面と向かっての打ち合わせには
及ばない。思考イメージの共有が現在の技術では実現できていな
い以上、例えIT企業であっても、Face to Faceの、実際の場を共
有しての会議は衰える様子はない。これが残念ながら現実である
。
本書でも、テレワークのために既存制度を変えることのナンセン
スを指摘している。社会の仕組みの変革があって、はじめてテレ
ワークという手段が活きるという認識である。今の少子化が進行
する日本においては、労働者が減っていく今後を考えると、社会
の仕組みの変革が、労働時間の作業時間を減らす方向に進むとは
考えにくい。
もちろん、ペイ・エクイティやワークシェアリングの考えも紹介
されてはいる。しかし、テレワークによる労働の実体の客観的な
把握が、企業にとっても労働者にとっても困難である実情から、
まずその点の改善を提唱する。さらに、女性の社会参加に対する
認識がまだまだ旧態依然としたものであることにも本書の目は届
いている。また、私見では、集うこと、群れることを無意識に求
めている人々については、IT化の進展や労務体制の変化がどうあ
れ、テレワークを逆に拒否することも考えられる。
私個人としては、今の通勤生活は大嫌いである。今の朝夕の通勤
から得られる利点は、どう数えても片手で足りるほどしか挙げら
れない。私自身の三方良しとは、仕事と家庭と個人の3つである
が、三方良しの目標と、今の現状は私自身にとって明らかに矛盾
している。だからといって、私が通勤生活から抜け、雇用者の立
場となったとしても、この問題は避けては通れないだろう。
ただ、私の知る会社では、社長自らが率先して既存の労務・人事
制度に風穴を開けるべく奮闘している。まだまだテレワークを活
かすことのできる工夫の余地、考えるべき点は沢山残っていると
思われる。どうすればテレワークが浸透するのかについて考える
ためにも、本書が打ち破ろうとする、テレワーク幻想の現実をし
っかりと見据え、今後に活かさねばと考えている。
'14/2/5-'14/2/7
電車の中は立錐の余地もなく、その煩わしさは通勤の意欲を削ぐ
に十分である。前向きに考えたくとも、そのスペースはあまりに
も狭く、集中力を発揮して生産的な時間とするにはあまりにも雑
音が多い。
日々の務めの一つとして、諦めて耐え忍ぶのか。人間を練るため
の修行として無に入るか。他人を内心でこき下ろして鬱憤を晴ら
すか。あるいは日々の通勤をしなくてもよい仕事に就くか。車内
に充満する人々の想いは多様であるに違いない。
かつて、テレワークという概念が脚光を浴びつつあった。勤め先
は変えずに、自宅で作業の一部、又は全体を行うという仕事のス
タイルのことである。IT化の進展により、技術的にそれが可能と
なる態勢が整い、通勤ラッシュは過去の言葉に。私も当初はそれ
に飛びついた。総務省のパブリックコメントにラッシュ緩和策を
テレワークに絡めて寄稿したこともある。
だが、テレワークという概念が提唱され、大分年月が経ったが、
状況に変化はないように思える。テレワークの切り札として、一
時シン・クライアント端末も持て囃されたが、クラウド全盛の世
にあって、最近は影が薄い。
おそらくは第一次ベビーブーム世代の大量退職と、徐々に整備さ
れた交通網によって、混雑の重症化に歯止めが掛かったためもあ
る。それと、今のビジネス慣用が、テレワークを受け付けにくい
やり方になっていることも大きいのではないか。
本書では、その後者のビジネス慣用の面から、テレワーク幻想に
疑問を投げかける。まず、総務省がいうほどテレワークが浸透し
ていない現実を、統計数値から分析する。分析といっても難しい
数式が並ぶわけではなく、分析の条件の立て方に誤解を与えるよ
うなことを指摘する。次に、テレワークの形態を在宅勤務型、モ
バイルワーク型、在宅ワーク型、SOHO型の4つに分ける。その中
から本書の分析の対象として、SOHO型を除外する。
在宅勤務型については、実際の勤務形態を幾多の例と統計数値か
ら個別に論証し、実際は労務管理の及ばない、より残業を強いて
いる現状を指摘する。
モバイルワーク型については、製薬メーカーのMR職の例を挙げ、
自己裁量労働の長所に比べ、過酷な長期間労働の現実を示す。
在宅ワーク型については、電脳内職という言葉をあげ、労働に見
合わない賃金と、作業スキル以外にも統括、営業スキルなどを持
たねば高収入は見込めない欠点を提示する。
いずれの例も、成功例と失敗例を挙げてはいるものの、全体的な
トーンとしては、テレワーク幻想に冷水を浴びせるものである。
私としては、誠に残念なことに、筆者の論旨に賛成である。なぜ
か。私は、平日は常駐勤務、夜中と土日祝日にはSOHO型+在宅勤
務型として生計をたてている。また、2年前までは在宅ワーク型
の仕事も請け、私から協力頂く作業者の方々に作業を割り振る統
括作業も行っていた。つまり当事者である。当事者の立場として
は、本書の例証に頷けるところが多かった。むしろ、在宅ワーク
型では他の作業例を読み、大変参考になったほどである。
また、IT企業での常駐勤務を経験している立場からも、テレワー
クの普及阻害要因はいくつも挙げることができる。それはセキュ
リティの問題(コンプライアンス)ももちろんある。が、それだ
けではない。そもそも、業務要件を作業者間で共有するためには
、ディスプレイ越し、ネットワーク越しの作業では、共通の理解
を醸成することは困難である。少なくとも現在の音声やテキスト
のやり取りだけでは難しい。リモート操作による画面共有も、ネ
ットワーク帯域が不十分なため、面と向かっての打ち合わせには
及ばない。思考イメージの共有が現在の技術では実現できていな
い以上、例えIT企業であっても、Face to Faceの、実際の場を共
有しての会議は衰える様子はない。これが残念ながら現実である
。
本書でも、テレワークのために既存制度を変えることのナンセン
スを指摘している。社会の仕組みの変革があって、はじめてテレ
ワークという手段が活きるという認識である。今の少子化が進行
する日本においては、労働者が減っていく今後を考えると、社会
の仕組みの変革が、労働時間の作業時間を減らす方向に進むとは
考えにくい。
もちろん、ペイ・エクイティやワークシェアリングの考えも紹介
されてはいる。しかし、テレワークによる労働の実体の客観的な
把握が、企業にとっても労働者にとっても困難である実情から、
まずその点の改善を提唱する。さらに、女性の社会参加に対する
認識がまだまだ旧態依然としたものであることにも本書の目は届
いている。また、私見では、集うこと、群れることを無意識に求
めている人々については、IT化の進展や労務体制の変化がどうあ
れ、テレワークを逆に拒否することも考えられる。
私個人としては、今の通勤生活は大嫌いである。今の朝夕の通勤
から得られる利点は、どう数えても片手で足りるほどしか挙げら
れない。私自身の三方良しとは、仕事と家庭と個人の3つである
が、三方良しの目標と、今の現状は私自身にとって明らかに矛盾
している。だからといって、私が通勤生活から抜け、雇用者の立
場となったとしても、この問題は避けては通れないだろう。
ただ、私の知る会社では、社長自らが率先して既存の労務・人事
制度に風穴を開けるべく奮闘している。まだまだテレワークを活
かすことのできる工夫の余地、考えるべき点は沢山残っていると
思われる。どうすればテレワークが浸透するのかについて考える
ためにも、本書が打ち破ろうとする、テレワーク幻想の現実をし
っかりと見据え、今後に活かさねばと考えている。
'14/2/5-'14/2/7
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