テンペスト 上 若夏の巻

著者
出版者
角川グループパブリッシング
価格
¥1,680

つぶやき

破天荒だけどぐいぐい読ませる。池上永一初体験はこれ。

評価・詳細レビュー

(5.0点)
本書については、賛否両論あると思う。

会話や地の文、登場人物の言動が戯画化されすぎているという短
所についてはもっともかもしれない。主人公の行動についても、
あれでばれないのはおかしい、とあまりに現実離れした内容への
いう批判もあると思う。

私はそれらの短所も、本書で訴えたい内容をどうやって活字離れ
が著しい読者に対して届けるか、という著者の苦心の跡と前向き
にとらえたい。

本書は薩摩藩に搾取されていた琉球の、朝貢先である日本の幕末
から開国の歴史に翻弄される様が描かれている。そのころの琉球
は、日本の情勢だけでなく、アヘン戦争をはじめとした列強から
の侵略の渦に巻きこまれる清国の情勢をもにらんだ二重外交を駆
使せねばならず、それにも関わらず、時流に抗することはできず、
琉球処分を受けて、尚氏王朝とともに日本の支配下に入る。

多くの日本人が沖縄に持つ負い目とは、太平洋戦争時の沖縄戦と、
その後の米軍統治、米軍駐留の今に至る歴史についてだろう。だ
が、それだけではないことを著者は本書で指摘したかったのでは
ないだろうか。つまり、琉球処分で強引に琉球を日本の支配下に
おいた経緯を、今の日本人に対してどうやって目を向けさせるか、
を考えた結果、重い内容と釣り合いをとるために軽い言動や文章
にしたのでは、と考える。

著者の作品は本書が初めてで、他の著書を読んでいないため、ひ
ょっとしたら的外れな感想かもしれないが、読んでから半年以上
経つ今も、琉球外交に苦心する主人公と、琉球王朝の陰湿な人間
関係の様が印象に残っているため、あながち著者の狙いも的外れ
ではなかったのかもしれない。

'12/04/01-12/04/03

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