原色の街・驟雨 (新潮文庫)

著者
出版者
新潮社
価格
¥460

評価・詳細レビュー

(4.0点)
 鳩の街とよばれた赤線を舞台にしているらしい。今の東向島のことで、永井荷風の『墨東綺譚』もこのあたり(玉ノ井)が舞台になっているそうだ。
 今の東向島というのは二三十年ほど前の景色がそのままうらぶれていったような景色で、赤線の面影があるのかどうかはよくわからない。ちょっと写真を借りる。http://hakkenden.blog.so-net.ne.jp/2008-02-17
 『原色の街』から表現を借りれば、「どぎつい色あくどい色が氾濫している」ということで、これは看板のことで建物自体に特徴があるわけではない。店の描写は「洋風の家」となっていて、今日見たところで見分けはつかないように思われる。何のことはない古い家が赤線の名残である可能性もあるわけだ。
 最後解説を読んでおもしろいなと思ったのは、吉行はこのころ赤線に行ったことは二三度しかなく、しかも「娼婦に触れたことはなかった」と述べているということだ。つまりこの作品はほとんど想像で描かれているということらしい。
 『驟雨』は男の目線だが『原色の街』は女と男のパートに分かれていて(いずれも三人称)、やはり女性の描写は「男から見た女」なのだが、しかしそれよりも吉行淳之介のものの見方というか立ち位置が、一歩引いて見ているという感じがする。
 松岡正剛の千夜一冊(http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0551.html)にも書かれているのだが、吉行は「左翼知識人」をすごく嫌っていたらしい。安部公房の関係の本でも、若いころ公房が左翼のコミュニティで集まって議論をしていた(若いころ共産党に入ったりもした。後に追い出された)ところにどこからか紛れ込んで議論を冷やかしていたという話を見かけた。壁に寄りかかって飄々と「冷やかしにきましたよ」と言ったら本当にしらけちゃったとか。
 エッセイの名手といわれただけあって(読んだことはないが)、なんのことはない描写もよかった。それと『夕暮まで』でもそうだったが、けっこう「夢」を使った比喩表現が多かった。

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