天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)
両側から腕をつかんでいる男たちの手に力が入った。男たちがバルサを押さえつけて、ひざまずかせようとした瞬間、バルサは、伸びあがるようにして男たちの力に抗い、つぎの瞬間、すっと自分から身体を沈めた。
とたん、男たちの身体が浮きあがり、もんどりをうって、にぶい音をたてて床に激突した。受身をとる隙をあたえない、鋭く低い投げだった。
男たちが床に叩きつけられたときには、バルサはもう、床を蹴って跳ねあがり、わずか三歩で机まで近づくと、四歩めで机に飛びのった。小男の頭上を一回転して飛びこえると、後ろから、小男の首と頭をかかえるように押さえこみ、机を蹴りとばした。
はでな音をたてて、机が床にたおれ、小男がいじっていた短刀が、にぶい音を立てて敷物の上ではねた。
剣を抜きはなった壁際の用心棒に、バルサは怒鳴った。
「動くんじゃない」
主人のあごの下にがっちりと決まっているバルサの腕の形を見て、用心棒は動けなくなった。そのままバルサが頭をかかえている手をひねれば、一瞬で主人の首が折れる。
大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい――密かな依頼を受けてバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか……。大河物語最終章三部作、いよいよ開幕!
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