天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)
両側から腕をつかんでいる男たちの手に力が入った。男たちがバルサを押さえつけて、ひざまずかせようとした瞬間、バルサは、伸びあがるようにして男たちの力に抗い、つぎの瞬間、すっと自分から身体を沈めた。
 とたん、男たちの身体が浮きあがり、もんどりをうって、にぶい音をたてて床に激突した。受身をとる隙をあたえない、鋭く低い投げだった。
 男たちが床に叩きつけられたときには、バルサはもう、床を蹴って跳ねあがり、わずか三歩で机まで近づくと、四歩めで机に飛びのった。小男の頭上を一回転して飛びこえると、後ろから、小男の首と頭をかかえるように押さえこみ、机を蹴りとばした。
 はでな音をたてて、机が床にたおれ、小男がいじっていた短刀が、にぶい音を立てて敷物の上ではねた。
 剣を抜きはなった壁際の用心棒に、バルサは怒鳴った。
「動くんじゃない」
 主人のあごの下にがっちりと決まっているバルサの腕の形を見て、用心棒は動けなくなった。そのままバルサが頭をかかえている手をひねれば、一瞬で主人の首が折れる。