日本の親子二百年 (新潮選書)
Yoshikazu Nagai
156 册
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156 件
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(5.0点)
年頭に立てた目標として、家族のあり方について考えてみようと思った。
仕事にかまけ、家族との時間が減っているこの二年であるが、果たして、そのあり方は家庭人として正しいのか。周知の通り、日本人は諸外国に比べ、働き過ぎと言われている。だが、それはどういう根拠によるものか。また、それは戦後の高度経済成長期故の一過性のものなのか、それとも日本古来文化として息づいてきたものなのか。そもそも、日本人にとって家庭とはどのような位置づけなのだろうか。
本書は明治以降の日本人が、どのように家庭の関わり合いを持って来たかを、当時の文化人による随筆、小説、論文、座談会の文章や、当時の新聞や雑誌の投稿欄に掲載された市井の人々の文章を広く紹介することで、家族に対する日本人の考え方の変化を読み取ろうとするものである。
著者による研究成果を文章で書き連ねるのも一つのやり方である。が、本書ではあえて当時の市井の人々の生の声を取り上げる。世相や空気といった微妙なニュアンスは、今に生きる著者による文章よりも、当時を生きた人々による文章にこそ宿る。その点からも、投書欄に目を付けたのは、著者の慧眼であり、本書の特筆すべき点である。日本人の家庭に対する考え方の変遷を追うには適していると思う。
本書で分析するのは明治の文明開化が始まった時期から、平成の現代まで。これは、新聞や雑誌というメディアが興ったのが明治からであるため、市井の人々の声を伝える場がなかったという理由もあろう。個人的には、明治維新を境として、日本人の文化の伝承にかなりの断絶があるように思う。そのため、江戸時代の日本人が持つ家族に対する考え方にも興味がある。機会があれば調べてみたいと思う。
なお、本書の冒頭の章では、明治期に日本を訪れた外国人の、日本の子育てに対する賞賛の声が多数紹介されている。交友範囲から考えると、サンプルに偏りがあるかもしれないが、西洋に比べると日本の子育ては実に行き届いているという。つまり、西洋でも近代的な家族の出現は18世紀になってからであり、それまでは早めに子供を徒弟として外に出してしまう慣習がまかり通っていたという事もある。当時の西洋の母親はあまり子供に関心を抱かなかったのだとか。ルソーの「エミール」を生み出した西洋にあって、この状態であるから、日本の家族についての思想が劣っている訳ではないというのが本書の姿勢である。
ただし、明治から大正に移るにつれ、当初の儒教的な、国学的な要素から、徐々に西洋の家族をモデルとして取り上げるべきではないか、との意見が多数紹介されるようになっている。そのころには、日本が文明開化以降、教育の面で西洋に比べて遅れているという理解が一般にも広がっていたということであろう。
大正デモクラシーから、昭和の暗い世相、軍国調に染まった世の中、と家族の考え方の変遷がこれほどにも移り変わっていることに興味を持つとともに、核家族化、情報化が進展した今では考えられないような意見の対立も紙上で繰り広げられた様など、生き生きとした家族への意見の揺らぎが非常に興味深い。
終戦から、高度成長期、そして現代まで。本書の分析は時代の流れに沿う。それにつれ、日本人の家庭に対する考え方も移り変わる。姑が優位な大家族から、嫁の優位な核家族へ。家族の為に汗水たらす偉いお父さんから、仕事に疲れ家族内での居場所もなくすパパへ。姑にいびられる嫁から、自己実現の機会を家庭以外に求める女性へ。文明開化から200年を経たに過ぎないのに、これほどまでに変遷を重ねてきたのが日本の家族である。
本書の主旨は親子関係を200年に亘って分析することである。しかし、親子関係だけでなく、教育や社会論など、本書を読んで得られる知見は大きい。
私自身としても、家庭を顧みず仕事に没頭せざるを得ない今の自分の現状を非とする考えは、本書を読んだ後でも変わらない。ただ、その考えすらも社会の動きや文化の動きに影響されていることを理解できたのは大きい。おそらくはそれぞれの親子が社会の中でどのように生きていくべきなのかは、個々の親子が関係を持ちながら実践していくほかはないということであろう。
本書の中ではモーレツ社員と仕事至上主義が子供へ与える影響という観点では論じられていない。ただ、非行や親離れ出来ない子供、子離れ出来ない親などの理由が述べられる中、本書で指摘されているのが、今の父親が自信を失っているということである。おそらくは家族との関係や実践など持てないほどの仕事の中、家族の中での存在感を薄れさせてきたということなのであろう。
これは今の日本が自信を失っていることにもつながる部分であり、家庭という視点から、今後の日本を占う上でも本書は有用ではないかと考える。
私自身もどうやって自分の仕事に誇りを持ち、陰口やねたみと無縁の自分を確立するか。それが成ったとき、子供たちとの関係も盤石なものに出来る気がする。
'14/03/15-'14/03/27
仕事にかまけ、家族との時間が減っているこの二年であるが、果たして、そのあり方は家庭人として正しいのか。周知の通り、日本人は諸外国に比べ、働き過ぎと言われている。だが、それはどういう根拠によるものか。また、それは戦後の高度経済成長期故の一過性のものなのか、それとも日本古来文化として息づいてきたものなのか。そもそも、日本人にとって家庭とはどのような位置づけなのだろうか。
本書は明治以降の日本人が、どのように家庭の関わり合いを持って来たかを、当時の文化人による随筆、小説、論文、座談会の文章や、当時の新聞や雑誌の投稿欄に掲載された市井の人々の文章を広く紹介することで、家族に対する日本人の考え方の変化を読み取ろうとするものである。
著者による研究成果を文章で書き連ねるのも一つのやり方である。が、本書ではあえて当時の市井の人々の生の声を取り上げる。世相や空気といった微妙なニュアンスは、今に生きる著者による文章よりも、当時を生きた人々による文章にこそ宿る。その点からも、投書欄に目を付けたのは、著者の慧眼であり、本書の特筆すべき点である。日本人の家庭に対する考え方の変遷を追うには適していると思う。
本書で分析するのは明治の文明開化が始まった時期から、平成の現代まで。これは、新聞や雑誌というメディアが興ったのが明治からであるため、市井の人々の声を伝える場がなかったという理由もあろう。個人的には、明治維新を境として、日本人の文化の伝承にかなりの断絶があるように思う。そのため、江戸時代の日本人が持つ家族に対する考え方にも興味がある。機会があれば調べてみたいと思う。
なお、本書の冒頭の章では、明治期に日本を訪れた外国人の、日本の子育てに対する賞賛の声が多数紹介されている。交友範囲から考えると、サンプルに偏りがあるかもしれないが、西洋に比べると日本の子育ては実に行き届いているという。つまり、西洋でも近代的な家族の出現は18世紀になってからであり、それまでは早めに子供を徒弟として外に出してしまう慣習がまかり通っていたという事もある。当時の西洋の母親はあまり子供に関心を抱かなかったのだとか。ルソーの「エミール」を生み出した西洋にあって、この状態であるから、日本の家族についての思想が劣っている訳ではないというのが本書の姿勢である。
ただし、明治から大正に移るにつれ、当初の儒教的な、国学的な要素から、徐々に西洋の家族をモデルとして取り上げるべきではないか、との意見が多数紹介されるようになっている。そのころには、日本が文明開化以降、教育の面で西洋に比べて遅れているという理解が一般にも広がっていたということであろう。
大正デモクラシーから、昭和の暗い世相、軍国調に染まった世の中、と家族の考え方の変遷がこれほどにも移り変わっていることに興味を持つとともに、核家族化、情報化が進展した今では考えられないような意見の対立も紙上で繰り広げられた様など、生き生きとした家族への意見の揺らぎが非常に興味深い。
終戦から、高度成長期、そして現代まで。本書の分析は時代の流れに沿う。それにつれ、日本人の家庭に対する考え方も移り変わる。姑が優位な大家族から、嫁の優位な核家族へ。家族の為に汗水たらす偉いお父さんから、仕事に疲れ家族内での居場所もなくすパパへ。姑にいびられる嫁から、自己実現の機会を家庭以外に求める女性へ。文明開化から200年を経たに過ぎないのに、これほどまでに変遷を重ねてきたのが日本の家族である。
本書の主旨は親子関係を200年に亘って分析することである。しかし、親子関係だけでなく、教育や社会論など、本書を読んで得られる知見は大きい。
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本書の中ではモーレツ社員と仕事至上主義が子供へ与える影響という観点では論じられていない。ただ、非行や親離れ出来ない子供、子離れ出来ない親などの理由が述べられる中、本書で指摘されているのが、今の父親が自信を失っているということである。おそらくは家族との関係や実践など持てないほどの仕事の中、家族の中での存在感を薄れさせてきたということなのであろう。
これは今の日本が自信を失っていることにもつながる部分であり、家庭という視点から、今後の日本を占う上でも本書は有用ではないかと考える。
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'14/03/15-'14/03/27
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