砂漠の惑星

著者
出版者
早川書房
価格
¥798
(5.0点)
レムによる未知の知生体との接触を書いた3部作の最後の作品。執筆順序は『エデン』 、『ソラリス』そして本書となる。6年前に消息を絶ってしまったコンドル号捜索のため、無敵号が砂漠の惑星へと向かうところから始まる。序盤の惑星探査場面から、調査隊がが隊長の判断により慎重な行動をとるため、「未知の危険」への緊張感はいやでも高まるというもの。それでなくても『ソラリス』のあの圧倒的迫力を思い起こせば、こちらではいったいどんな存在をレムが考え出したのか。

さて、いつまでも惑星の軌道上からの調査というわけにも行かず、現地調査となるわけだが、ロハンはじめとする調査隊の面々が見つけたのは奇怪な建造物のようなものと、真っ黒い雲だ。これらが結果的にどんな存在であったかは省くが、こちらと比較するとエデンに登場する複合生命体はなんとか意思の疎通がとれそうな気がしてくるほどである。

邦題は『砂漠の惑星』だが、現代は『無敵』。ロハンたちの乗る宇宙船も無敵号という名前だ。無敵号はおよそありとあらゆる場面に対応し、まさに無敵を誇る装備を搭載していたはずだったが、選び抜かれた宇宙飛行士たちの頭脳と、その設備をもってしても何故石鹸に歯型がついていたのか、明確な回答は得られない。何故、それが起こったのか。解説で上遠野浩平が語っているとおり、これは重大なものが破壊された結果である。無敵号が搭載している設備では、おそらくえることのできない結果だろう。破壊されてしまったのは人間性と記憶そのものであるからだ。人間性が含まれた記憶そのものと言ったほうが正確かもしれないが、ともかく結果として「破壊」されたしまった。

人間が作り上げた枠組みを超えた概念と存在を持ち込むことで、レムは人間を否定する。そして、否定は悲観ではない。万能戦車が持つ究極の破壊力は、現実世界が持つ武力の無意味さだ。現に戦車の持つ砲撃は黒雲には全く通用しない。砂漠の惑星がにより破壊される人間、そして類似性の欠如から諦めざるをえない相互理解だが、これは現実に人間が必要としていることではないだろうか。人間が持っているものの無意味さを再認識し、それらを手放した上での行動と決断を求めているように思う。

終盤、行方不明者の捜索に単身乗り出すロハンだが、彼に反応する存在たち。知性を持った海よりも、無機質でまさに乾いた砂漠のようなその存在の意図はわからず、理解するすべもない。無敵の名を冠するはずの宇宙船ですら、さじを投げる。『ソラリス』では人間の感情が入り込んでいたが、本書ではそれすらもなく無常観あふれる現実と宇宙への達観がある。しかし、これは決して諦念ではない。ロハンの決断と行動は人間性の証明である。既存概念の破壊、そして再構築。破壊されることも、無駄な行動も決して無意味ではない。

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