ヒトの祖先をさかのぼると、早くも五億年くらい前には、いまの私たちに連なる動物が地球上に暮らしていたらしい。直系のご先祖様とはいえ、太古の昔の話。彼らは、偉そうにデスクに座ってコンピューター相手に悪態をつく、読者のあなたや著者の私とは、まだ似ても似つかないような姿の持ち主だ。一見すると、佃煮にされそうなひ弱な雑魚のような生命ですらある。しかし、心臓だの、神経だの、筋肉だの、体の軸だの、身体の部品をよくよく見れば、こんな五億年も前の“佃煮”に、すでにヒトに向かう微かな兆候が見え始めている。私たちの歴史は、何億年も前の彼らの身体をもって、地球の歴史にすでに確かな一歩を踏み出しているのだ。
--出典:
人体 失敗の進化史 (光文社新書)