社会を変えるには (講談社現代新書)
 ここではあらかじめ「私」や「あなた」がある、それが相互作用する、という考え方を個体論とよびましょう。それにたいし、関係のなかで構成されてく、相手も自分も作り作られてくる、という考え方を関係論とよびましょう。
 人間は、なかなか個体論的な発想から抜け出せません。やっぱりあなたが悪い、私が正しいと思い、あれこれの観測を数えあげてしまう。そのところで、「ちょっと待て、いったん頭を空にしてみよう」という知恵が必要です。それを「エポケー」といい、日本語では「判断停止」などと訳します。
 このような考えをフッサールは、第一次大戦前から唱えていましたが、戦後に広く受け入れられていきました。戦争の体験、科学の変化、ドイツ社会の動揺などが重なって「絶対ということはありえない」という感覚が背景になっていたと思われます。(p352)
--出典: 社会を変えるには (講談社現代新書)
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