フィンランドは(PISAランク)読解力一位、数学二位、科学一位だが、教科書を今日の自由裁量にし、統一カリキュラムはあるが全国一斉テストはなく、習熟度別クラス編成や補修はせずに、授業時間数は英米より少ない。
北欧の教育政策は他の社会政策と呼応している。完全雇用を目指し、労働者の権利を認め、福祉を目指す行政だ。たとえ不十分でも、福祉社会に欠点があるにせよ、国民の生活を平準化する努力をしてきた。だから教育行政で、成績別クラスより総合性を、競争や学校選抜より連帯や共同性を、国民や民族意識より地域文化を、テストや成績より学習意欲を、知識の注入より問題解決学習を重視してきた。白教育の重視である。
白教育は社会政策と連動している。競争社会で白教育は極めてしにくい。平準化社会でこそ白教育が有効だ。この点を多くの人が錯覚している。
PISAもテストであり、これが全てではないが、教育再生会議が成績上位のフィンランドに比べ、全て逆の政策をとり、日本より下位にある英米の教育を手本にした理由がわかる。社会政策上、英米はフィンランドとは異質なのだ。
〈中略〉
子どもの学力は国民の貧富の格差と希望の格差をよく表す。日本は英米と同じく競争原理に基づく社会であり、フィンランドのように生活水準の平等化や福祉社会を目指してはいない。再生会議案は成績上位者をあげることに専念し、全体の底上げは狙っていない。
A層に入る「エリート」を選別しようとしているだけだ。イギリスでもアメリカでももともとの成績上位者はテスト成績をさらに上げている。この「実績」を「高く評価」したのが再生会議の提言だ。(p218-219)
--出典:
教育と格差社会