「消費する大衆」がいかに<モノ語り>の人々と近縁になるかをしめすよい例がひとつあります。それはプレゼントです。日本人が贈答好きなことは世界的にも有名ですが、近年は、盆暮のつけ届けにとどまらず、モノのやりとりをする機会が非常に増えました。
この機会を積極的に利用しているのは若い人達です。クリスマス、誕生日、バレンタイン・デー、機会があればプレゼントを贈り合います。プレゼントは心のこもるモノなら何でもよい、というわけにはいきません。プレゼントは贈り主の"センス"を表示しますし、もらい手の「絶対欲しいモノ」でなくてはなりません。この二つの条件を満たすモノは高価です。安物では"誠意"がないといわれてしまいます。"誠意"とは高価なプレゼントのことのようなのです。
(...)ともあれ、いつの間にか人々はモノに気持ちを託して贈り、モノをもらって贈り主の気持ちに感謝するなどというまどろっこしいことをやめてしまいました。贈りモノがすなわち"気持ちというプラグマティックで分かりやすい哲学に乗り換えた人々がたくさんいるのです。 P236
--出典:
豊かさの精神病理 (岩波新書)