鹿男あをによし
評価 : (5.0点)

デビュー二作目にして、この世界観の飛躍もいいのだけれど、この筆力
の充実ぶりといったら。

発想も大枠自体はそれほど突飛でもないのだけれど、細かい部分での描
写や動きが自由な発想で楽しめる。それは終盤で明かされるとあるアイ
テムの正体や、それぞれの登場人物の役割などに代表される発想の飛躍
に代表される。拡げた大風呂敷の空間を精いっぱい使い切っているだけ
に、設定に無理があると思わせないところがすばらしい。

そして著者が、設定のユニークさだけの作家でないことを見せてくれた
のが、本書の剣道のシーン。胸が熱くなる。ここまで臨場感あふれる剣
道の試合風景を描いた小説はまだ読んだことがない。飛び散る汗や竹刀
の音、刻々と押し寄せる疲労の波。それらを操ってここまで熱く読ませ
るシーンが描けるからこそ、壮大な世界観と細かなディテールが相乗効
果を生み、流れるように奔放に、破綻を全く感じさせることなく作品世
界を完結させられるのだということを、思い知らされた。

それにしても鴨川ホルモーといい、本書といい、プリンセス・トヨトミ
といい、私の読んだ三冊は、どれも地理的な感覚が豊かな人にしか書け
ない設定になっている。おそらく著者は地図を眺めるのが好きな方では
ないかと思う。 

'12/1/26-'12/1/26


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