そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)
評価 : (5.0点)

巻末の児玉清さんの解説にすべてが書かれている。本文でも静かな共感
と感動が、そして読み終えた終わった後には児玉さんの文章にまた心を
動かされる本である。

著者が亡くなった後に、依頼を受けて書いていたという奥様とのなれそ
めや思い出を綴った原稿を、残された遺族の方がまとめたという本書は、
原稿に対する気負いも重圧もなく、ただひたすらに著者の愛妻家ぶりと
自分の一生への肯定的な気持ちが伝わり、すがすがしい気持ちになる。

私の少ない読書体験の中では、著者の自伝にはまだ巡り会っていないけ
れど、愛妻との出会い、そして名古屋への通勤から茅ヶ崎への転居、小
説家としてのデビューが淡々とした筆致で語られており、本書こそが著
者の自伝といっても過言ではないだろう。

巻末には原稿を編纂した遺族の娘さんによる文章も載っており、著者の
主観的な文章と、娘さんの客観的な視点から、氏の愛妻家や人柄が伝わ
ってくる。

職住近接のススメとして、本書を取り上げてもいいかもしれない。

なお、この本の解説を児玉さんが書かれたのは、なくなる一年前である。
あくまで想像だけれど、お亡くなりになる前に、改めて本書の想いを味
わいつつ、旅立たれたのではないだろか。

'12/1/30-'12/1/31


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