影男 (江戸川乱歩推理文庫)
評価 : (5.0点)

本がないと生きていけない私の読書人生で転機になったのは、間
違いなく江戸川乱歩の著作と出会ってからであり、小学三年生の
あの頃、ポプラ社の二十面相やルパン、ホームズ物をむさぼるよ
うに読んだ日々がどれだけ幸せだったか。

ポプラ社の46巻シリーズ、前半は少年探偵団や明智探偵と怪人
二十面相の対決を軸とした子供向けの性格が強いのだが、後半は
大人向けの小説を子供向けに翻案したもので、小学三年生の私に
も、後半のほうが起伏に富んでいて面白かった思い出が強い。

中でも本書は怪しげな世界観が、子供向けに翻案されている内容
からも色濃く立ち上っており、子供心にもなにかぞくぞくするよ
うな感覚が去らなかったことを思い出す。

本書は無論、翻案なしの大人向けの内容そのものであり、在りし
日に味わった幸福な読書体験を大人の目で楽しむことができる。

確かに今の仮想現実に慣れさせられた目からみるとパノラマ仕掛
けにも、筋建てにも難を感じるところがあるのだが、それがかえ
って昭和初期のレトロな雰囲気を発し、本書の独特な魅力につな
がっているのではないかと思う。一度読んだだけでは本書の魅力
を味わうには至らない。その証拠に、私が大人向けの本書を読む
のは2,3度目である。

'12/03/26-12/03/27


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