幕末史
評価 : (5.0点)

著者の歴史観の支持者である。歴史に対して特定のイデオロギー
に傾かずにバランスを取ろうと努力する姿勢は、私の目ざすとこ
ろとも一致する。

昭和史を主分野とする著者が、幕末を取り扱ったと聞き、本書を
手に取った。

昭和史は、その時代の結果が平成の御世に生きる我々にも影響を
与えている。それだけに、我々も描かれた内容に対し、身構えて
読む癖がついている。一方、幕末はどちらかといえば異なる時代
という認識が強く、史書を読んでも小説を読んでいるかのようで
ある。実際はかなりの影響を現代に与えているにもかかわらず。

幕末、日本の歴史上で唯一といってよいほど、維新の名が後世に
定着した時代。その歴史を取扱うに当っては、現代のわれわれに
どういう影響を与えたか、そして当時の人々が国論を何分にも分
け、命を懸けて日本を変えようとどう努力したか。油断すれば小
説のように他人事として見てしまう時代の空気をどう伝えるか。
バランス感覚が求められるところである。

著者はその時代を一歩引いた目で見つつ、ソフトな語り口となる
べく実生活に近いエピソードを盛り込むことで、我々にとって幕
末が遠い昔の話ではなく、今の日本に直接つながっていることを
知らせようと努力している。

私にはその努力は実を結んだのではないかと思う。幕末史入門編
として、お勧めの一冊。

'12/04/27-12/05/02


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