スマートグリッド革命――エネルギー・ウェブの時代
評価 : (5.0点)

最近の日本について、既存権益に気を配るあまり、改革ができな
くなっているように思えるのは、私だけなのだろうか。

改革だけが全てではないと思うが、既得権益を見直したほうがよ
いと思える分野も往々に見られる。そのうちの一つが電力業界で
ある。

先日、本レビューで、闘電という本を取り上げたが、あの本が来
し方の電力業界を綴った労作とすれば、本書は、行く末の電力業
界を提言した意欲作と思う。

電力と言えば情報技術の根幹を支えるインフラであり、電力なく
してPCやサーバーは動かない。情報技術の力で地球をネットワー
クで結び、地理的、時間的な制約を取っ払ってきた功績は、計り
知れないものがある。なによりも、情報技術の進展は、地位や国
籍、性別や年齢など、社会を超えた情報伝達を可能にしてきた。

では、電力業界はどうなのだろうか。情報技術の根幹を支えなが
ら、情報技術の恩恵を享受しているのだろうか。私にはそうは思
えない。確かに機械制御などは情報技術の力を借りるところ大と
思う。しかし、電力業界内はともかく、電力業界外への情報伝達
がないがしろされてはいないだろうか。

本書では、電力の賢い送電網である、スマートグリッドの仕組み
を余すところなく説明している。発送電分離に留まらぬ、広い範
囲の知見が盛り込まれており、得るところは大きいと思われる。

世界各国の取組から、全地球規模のマクロな視点でのスマートグ
リッドを語り、マイクロな家庭レベルの恩恵についても説明を省
かない。

ただ、具体的に家庭に恩恵がどう降り注ぐのか、という点には、
具体的な事例を示す事に作者が苦労しているのが読み取れる。具
体的な欲求に紐付かない技術を、いかに世に知らしめていくか。
著者および、スマートグリッドに関わる全ての方に共通の課題で
はないかと思う。

だが、既得権益に気を配るのをやめ、日本、いや、世界に目をむ
けて、考えるべき時点に来ているのではないだろうか。本書は、
そういった規模で物事を捉えるにあたって、スマートグリッドの
仕組みを使ってヒントを与えてくれているように思える。もはや
目の前の利益に判断を誘導されるのは、改める時期に来ていると
思う。日本は。

'12/05/11-12/05/15


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