自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来 (新潮選書)
評価 : (5.0点)

2014年は、日本の政策として急ぐ必要のあると思われる、少子化
について考えてみたいと思う。

全人口に占める、高齢者の割合が増えることで、勤労世代が担う
福祉費の増大が予想される。また、国の活気やムードの沈滞も予
想される。一旦落ちた出生率を上昇させるには、現時点の出生率
では最早難しいとのデータも出されている。日本国民だけで少子
化を食い止めるためには、出産率を増やさねばならない。それが
無理であれば、海外から移民を奨励する必要がある。それもかな
りの割合で。そうなると、日本の国体や文化などを守るための運
動や議論の一切は無意味なものとなる。

日本は古来、渡来民を受け入れ、彼らを日本文化に取り込むこと
で文化を発達させてきた。中国や朝鮮半島からの帰化人が、日本
文化成立に果たした貢献度は、言葉には表せないほどである。た
だしそれは何世代にも亘り、徐々に日本に浸透してきた結果であ
る。今のように情報伝達の速度が速い社会で、移民を推奨したと
ころ、日本文化の大部分は、移民文化の波に呑みこまれてしまう
のではないかと危惧する。

移民もこれからの日本文化を豊かにするためにも歓迎すべきだと
思うが、それも限度がある。私見だが、移民排斥運動が起きかね
ないほどに移民を受け入れることには、歯止めを掛けておくべき
ではないだろうか。

日本の文化には見るべき景観や、誇るべき美徳がまだまだ残され
ていると思う。それら良き部分を後世の日本人に残すことは、今
日本に生きる我々が考えるべき重要な点ではないか。

ただ、上に述べた私見にはまだまだ補強すべき点が多い。それで
、今年度は色々と本書のような人口問題についての本を読みこみ
、自分の無知な知識を少しでも補えればと思っている。

本書の主旨をまとめると、「人口に占める若者の割合が高い国ほ
ど、ジェノサイドや暴動、テロ、多民族への侵略の起こる確率が
高い」ことである。

このテーマに沿って本書では、以下の論点を提示する。一つに、
若者が求めるのは社会の中で自分が収まるべきポストであること
。二つに、同世代のライバルが多い以上、同じ文化内、または、
異なる世代、文化、民族、宗教を攻撃し、空きポストを作るとい
うこと。三つに、それは、若者が受ける教育や文化、生活の貧困
などに関係なく起こること、である。これら怒れる若者たちを称
して、ユース・バルジと呼ぶ。

これらの論証を、著者は古今東西の膨大なデータを渉猟した結果
として、本書内で提示する。

例えば、大航海時代からこの方、ヨーロッパは地球のほとんどを
支配するに至った。それはなぜ起きたのか。

14世紀のヨーロッパを席巻したペスト禍で、人口の相当数を失
ったヨーロッパ諸国。その結果、聖職者の成り手すら枯渇するに
いたる。その対応として、時のローマ法王インノケンティウス8
世は、魔女勅書を出す。その中で、妊娠と出産を阻害するものは
罰する旨が描かれており、中絶を実施するもの、産婆、つまりは
魔女に対する迫害の端緒が開かれたということを本書は示唆する
。その頃から、女性医学の経験値が失われたことが論証される。
その結果として大量に生まれた若者たちのエネルギーがどこに向
かったかは、世界史で知られる通りである。

性の医学の衰退と、ヨーロッパの国々が意識し始めた、占有権で
はない所有権の概念についても示される。これも当時のヨーロッ
パの若者が、新大陸での略奪の限りを行った、理由の補強として
提示される。

また、本書では、現代の世界で憂慮すべき問題として、イスラム
圏での国々の若者の割合がいずれも膨大な数に上がっていること
。このことが、もっと注目されるべきと訴える。これらイスラム
圏のユース・バルジが、出生率の低い西欧諸国にとって何らかの
災厄をもたらすのではないか、と。

本書では日本も出生率の低い国として挙げられている。しかし、
残念ながら出生率低下に伴う、世代間の負担についての有効な処
方箋は示されていない。また、中国については人口が増えている
とはいえ、ユース・バルジの割合がそれほどでもないことから、
中華人民共和国の領土拡張の野望や、周辺諸国への移民問題につ
いても、特にページは割いていない。

ただ、現在の人口と若者人口比から算出した2050年の人口順が、
124ヶ国についての詳細なリストとして掲出されている。そこでは
、日本は現在の10位から18位と下がっており、明らかに衰退傾向
予備軍として、挙がっている。気にかかるところである。

また、本書ではタリバンを例に挙げ、女性の教育向上を、新たな
戦士=ユース・バルジの出生を阻害する要因として敵視する意図
が記載されている。そして上位に衰退傾向予備軍として挙げられ
た国の殆どが、女性の社会進出が盛んな国であることも、わずか
に示唆されている。私としては出生率の多寡に関係なく、男女協
働社会はありとする考えである。そのためにも、経済至上主義、
特に男性の子育てが軽視されがちな現状を憂慮するものである。

先に書いたように、本書では、出生率向上策や、女性の社会進出
についての是非については触れられていない。そのかわり、日本
国民の大多数が抱く、ジェノサイドや暴動、テロ、多民族への侵
略とは、宗教や文化的に違うイスラム圏の問題であり、日本には
影響が及ばないという考え方を改めるには、有用な書物であると
言えるだろう。

'14/01/17-14/01/24


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