人体 失敗の進化史 (光文社新書)

著者
出版者
光文社
価格
¥777
進化の枝分かれは、勝つか負けるかという二者択一で考えるものではけっしてない。どこかで運命を隔てられた両者が、それぞれの生き方で十分に成功していくという歴史はごく普通のことだ。
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多くの読者の皆さんは、あなたの耳が昔の動物では顎のパーツだったといわれても、何のことか分からないかもしれない。あなたの土踏まずの窪みが、この500万年間のサルのなかまの歴史を語る、輝かしい勲章であることをご存知だろうか。あなたが女性なら、毎月訪れる生理が、わがホモ・サピエンスの類まれな生き残り戦略の帰結であるということを聞いたことがあるだろうか。トクトクと休まずに震えるあなたの心臓が、5億年よりはるか前には、“お腹の内のり”だったといわれたら、私たちは面食らうばかりかもしれない。
そうしたヒトの歴史を知る術として、私たちはたくさんの遺体に頼ってきているのである。自分たちの身体の歴史を探る手段が、実は人知れず研究されてきた動物たちの遺体だったのだ。
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ヒトの歴史を示す証拠はどこに隠されているのだろうか。
(中略)
実をいえば、かくある証拠の在り処は、他の何物よりも私たちに近いところにある。そう、記録をひた隠しに隠しつづけるのは、私たちの身体そのものだ。そしでもう一つ、私たちの身体のに歴史の道筋を提供してくれた数多の動物たちの身体こそ、歴史を奥深くに潜ませた、知の宝の山だ。
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ヒトの祖先をさかのぼると、早くも五億年くらい前には、いまの私たちに連なる動物が地球上に暮らしていたらしい。直系のご先祖様とはいえ、太古の昔の話。彼らは、偉そうにデスクに座ってコンピューター相手に悪態をつく、読者のあなたや著者の私とは、まだ似ても似つかないような姿の持ち主だ。一見すると、佃煮にされそうなひ弱な雑魚のような生命ですらある。しかし、心臓だの、神経だの、筋肉だの、体の軸だの、身体の部品をよくよく見れば、こんな五億年も前の“佃煮”に、すでにヒトに向かう微かな兆候が見え始めている。私たちの歴史は、何億年も前の彼らの身体をもって、地球の歴史にすでに確かな一歩を踏み出しているのだ。
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