メルロ=ポンティ・コレクション (ちくま学芸文庫)
普通の考え方では、言葉は思考を固定するための手段にすぎないとか、言葉は思考の外皮であり、衣装であると言われることが多いものだが、こうした考え方を認めることはできない。…語に固有の意味の能力がそなわっていなければ、語が「思考の砦」であることはできないし、思考は表現を探すことができない。なんらかの形で、語と言葉が、対象や思考を指示するための方法であることをやめ、知覚される世界における思考の現前そのものでなければならない。語は思考の衣装ではなく、その象徴であり、その身体でなければならない。…言葉は真の所作であり、所作が固有の意味を含むように、言葉はその固有の意味を含む。ここではじめて、コミュニケーションが可能になる。…しかし、それは…相手の最初の「表象」がわたしのうちに再生産することを意味するのでもない。…わたしがこの他者の意図を受け取るということは、わたしの思考の操作ではなく、わたし自身の実存がこれに同調して変化することであり、わたしの存在の変形である。(p.23-26)