死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う
評価 : (5.0点)

貪りつくように一気に読みきった本。
相当面白い。

タイトルから想像に難くない、死刑は廃止か、存置かを
徹底した体面取材を通して著者が輪郭付けいく作品。

冒頭、著者は語る。
「(死の)同心円の周縁には、罪と罰、加虐や報復、贖罪や暴力、怨嗟や憎悪、哀切や悲嘆などの要素が並び、
そしてこの中心に「死」がぽっかりと、虚無の深い口を開けている」

とにかく取材を続けながら森氏は揺れる。立ち止まる。絶句する。
その繰り返しだ。ある種の弱々しさが浮き出てくる。
でもそれは、森氏が常に一人称単数で考え進んでいるから。
決して複数で一般化することしない氏の強さでもある。

森氏は中立ではない。公平でもない。
表現者である以上、揺れや対象者との距離感も含めて、
恣意的に表現をしている。

その上で、死刑は廃止か、存置かに是非を問うことに大きな意味はない。
貪るように頁を繰るというその忘我にこそ意味がある。

俺はあっちに行ったりこっちに行ったりして、こう考えた。
お前はどうだった?

森氏は煩悶しながらも問いかけてくる。
私やあなたという一人称単数が考えるという行為を強いる。
表層的な一般論を口にすることは無意味、と無言で投げかけてくる。


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