檸檬 (新潮文庫)
評価 : (3.0点)

 表題作は昔読んだときにはおもしろくねえなあと思ったけど、今日読んでみたらけっこうははあとなった。途中寝ちゃったけど。
 開高健は、ずっと机に向かって文章を読んでいると、温度や意味が消えていくということを言っていた。これはこの本をはじめて読んだころにはわからなかったことだけど、今ではよくわかる。本当に文章の意味がわからなくなるということはあるんです。それでも読んでしまった本もけっこうあるけれど。
 この『檸檬』という話は、鬱々として歩いていたらレモンの匂いが鼻をついて、何かこう感覚が戻ってきた感じを受ける。それで憂鬱でしかなかった丸善の本の売り場に行って、本を積み上げては崩し、その色彩の上にレモンを乗っけてそのまま帰っちゃえゲヘヘーという内容です。
 他にも作品はあるんでげすが、字数を食ったのでもうちょっとだけ。三島由紀夫のどの作品か忘れたけれど「生が極まって独楽の澄むような静謐」という表現がある。この『檸檬』の中の『桜の樹の下には』には「一体どんな樹の花でも、所謂真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。よく廻った独楽が完全な静止に澄むように……」という文章があって、かなり似た表現だよね。また浅田彰の「器官なき身体」の説明も思いだす。


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