忘れられた日本人 (岩波文庫)

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数多の示唆に富んだ、名著と呼ぶに相応しい傑作。

同書は基本的には老人への聞き書きで構成されている。
エリアは主として西日本。瀬戸内海周縁が多いだろうか。

こういう言い方もナンだが、名もない、その辺に村に住む老人の生涯を
とても丁寧に聞き取ることで、その時代の習俗が鮮やかに甦る。
殊、印象深かったのが、唄とセックスの風俗。

明治から昭和初期にかけての男女の固定観念としての貞操感を覆す。
そのセックスについてまわる唄の巧拙と女を落とす関係。
この辺は、習俗の記録として、非常に価値ある記述と思う。

だが、何よりも全体を通じて記録されているのは、無字文化の伝承。
ここに登場する老人の大部分が文字を読めないし書けない。
つまり、著者が老人のもとを訪ね、その話を書き取らねば、
ここに書かれた全てが絶たれてしまう。

その意味で、忘れられた日本人、とのタイトルに一層の重みが増す。
有字だけでなく、大部分のこうした無字文化の堆積によって、
僕らの生活は成り立っているのだと感慨深くなる。

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