公房を主に読んでいたのはもう十年以上前なので、下手なことを言うとコビーさんに刺されそうだが、この作品はコビーさんにはいまいちピンと来なかったらしいし、僕も去年読んだばかりなのでちょこっと触れていいだろう。
僕が読んだ一部の作品群から勝手に判断すると、公房って短編の方が読むのが難しくて、例えば何で「砂の女」が代表作としてあれだけ持ち上げられるか、というと一冊の本としてすっきり読み切れるからだと思う。短い話になるほど、なんでそーなるの？　というか、コンセプトを掴めないまま終わってしまう感じがする。基本的に不条理なんだけど、おそらく現実のメタファーなんだろうなあ、くらいにしか理解できないのだ。
密会ってのは、例えばネット上の掲示板で、twitterやブログなどの書き込みを元に個人の行動を追跡して楽しむスレッドがあるような覗き見趣味を描いた話で、誰が覗き、誰が覗かれてるのか分からない、みんなが覗かれてることを承知で乱交してるんじゃないか、といったことを絶望混じりで描いてるんじゃないかなあ、と勝手に思っている。
個人的な分類では「他人の顔」「箱男」と同系列の楽しみ方ができる作品で、というのは、やけに専門的（箱男は専門というより珍奇趣味だが）な分野に偏った知識・研究に裏打ちされた地道な行動が、不条理な展開にひっくり返される瞬間のカタルシスがある。
本作の主人公は特に迷走してる感じで、賽の河原というのか、全編かけて積み上げたものが最後にぐわしゃーっとぶっ壊されるというより、やることなすこと全て裏目に出るのだ。カードゲーム漫画で、持ち札を全部相手の戦術で失っていく感じに似ているような気がする。カードゲーム漫画読まないけど。

溶骨症の少女というのがやけにエロティックな存在として中盤以降のヒロイン的存在で出てくる。ラスト、暗黒の中で道に迷った主人公の背中で、すっかり骨が溶け崩れて原型を失いながらも、背中に少女の体温を感じる、というのが、何か切なくてしんみりとした読後感だった。