21世紀家族へ―家族の戦後体制の見かた・超えかた (有斐閣選書)
近代の母親は二つのものの代理機関でもあります。一つは医者です。近代になって衛生という考えかたが生まれ、人々は日常生活の細部にまで、神経質なほど気を配るようになりました。母親というものは、子どものみならず、夫や家族の全員に対して、手を洗いなさいとか、何を食べちゃいけないとか、いちいちうるさく口を出しますね。これは、十八世紀〜二十世紀に母親に要請された「病気予防者」としての役割です。
それから母親は、周知のように、学校の教師の代理機関でもあります。「衛生」と「教育」といえば、近代社会がその内側まで踏み込んで人間を管理する、中心的な制度です。(p69)