遺産相続ゲーム―五幕の悲喜劇
アントーン
手前が―旗幟鮮明に?自分の色を明らかにする?虹の所有者であるこの私が?青。黄。オレンジ。赤。紫。プリズムであるこの私が、自分の色を明らかにしなきゃならん?私はすべての色を通し、すべての色を明らかにする。私は色など知らないのだ。すべての色は色ではない。光だ。闇だ。
(彼はろうそくを消す。すると家全体が夢のように活気をおびる。喘ぎがひどくなり、ミシミシ、メリメリと、ものがずれる音。壁や床が動きだしたかのようである。ほこりがハラハラと天井からこぼれる。蹄の音が近づき、立ちどまるのが聞こえる。いくつもあるギャラリーのひとつで、一瞬、そのすき間から白馬の首が見える。パニックに陥っていて、眼を見開き、歯をむき出している。と同時に宮殿がゆれる。アントーンは暗がりの中に立ったまま動かず、言う)
私は色盲だ。



(P121)
--出典: 遺産相続ゲーム―五幕の悲喜劇
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