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1 つめの原則は「双方向」です。双方向の対話とは、ただ単純に言葉が行ったりきたりしていることではありません。たとえば次の会話を見てみましょう。
クライアント「すいません。先週やると決めたことができませんでした」
コーチ 「あなたが目標を達成するためには、必要だったことですよね?」
クライアント「はい。そう思います」
コーチ 「わかっているのに、なぜできないんですか? なぜやらないのですか?」
クライアント「そうですよね。すみません」
このような、コーチ側に強い先入観や、正解ありきで誘導的な質問をしているコミュニケーションは、言葉のやりとりをしているだけで、双方向とはいえません。コーチがクライアントにいいたいことを一方的に伝えているコミュニケーションです。
上の会話の例では、「目標達成のためには、やると決めたことはやるべきだ」というコーチ側の強価値観・信念のもと、「とにかく、もう一度やると約束させよう」という着地点が決まった誘導的な質問となっています。コーチとクライアントが対等な立場ではありません。
では、双方向が成立していると、先ほどの会話はどうなるでしょうか。
クライアント「すみません。先週やると決めたことができませんでした」
コーチ 「何か理由があったんですか?」
クライアント「頭の片隅には常にあったのですが、緊急トラブルでその対応に追われてしまって……」
コーチ 「それは大変でしたね。忙しい中でも、目標に向けて前進するにはどんな工夫ができるでしょうか?」
クライアント「優先順位を明確にして、取り組んでみようと思います」
この会話は、先ほどの会話とは違って、同じ目線で言葉のキャッチボールをしている状態です。相手の発言を受けて、自分の言葉を投げかけ、またそれに返して……という、やりとりの繰り返し、それが双方向の会話が成立している状態です。
--出典:
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