小さき者へ・生れ出ずる悩み (岩波文庫)
評価 : (4.0点)

表題となっている短編2作を収録。

◆小さき者へ
母親を喪った3人の息子たちへの書簡。
妻を失った悲嘆と子を思う慈愛が混在する力強さと儚さは、吐露に近い。
書簡の体裁は取っているものの、彼自身が文章にすることで、
妻の死、ひいては妻の死を受け止めきれない自分を、形象化しようと試みている。

◆生まれ出ずる悩み
芸術の才を持ちながらも、北海道の貧しい漁夫という宿命との
狭間で揺れ動く様を描く。

とにかく文章が圧倒的に美しい。
文章の発する意味はもとよりも、読むときのスピード、リズム、呼吸
漢字1文字助詞1文字が暗黙的に表現する風情に至るまで、
微細にわたって考え抜かれていると感じた。

これは編集者や読者、物語の世界観などを勘案したレベルではない。
2作品とも、身を削り、自己との対峙を自らに課した人間の文章。

久しぶりの「文学」に触れた気がします。


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