飛ぶ男
評価 : (3.0点)

 安部公房の絶筆。公房はワープロ文豪(この名前は意見を反映させた公房にちなんでNECがつけたのだと安部ねりは『安部公房伝』で述べている)で書いていたから、亡くなったときの状態の再現ということなのか、最後はたくさんの改行や断片的な文章で終わっている。
 再現というのは、以下のようなことである。
 公房が亡くなってから未発表の作品が入ったフロッピーディスクが発見され、すぐに出版されたが、ほどなく公房の妻である安部真知が手を加えたことが発覚し絶版になった。それがこの本『飛ぶ男』なのだが、真知は公房の死から一年後に亡くなっており、どこまでが改稿された内容なのかはわからないという(ということは最後の部分が「再現」である証拠もないのだが)。

 読み方は人の好き好きでいいのだろうと思うが、Amazonレビューの「情報」は明確に誤りなので一応つっこみをいれておく。
 絶筆となった作品は表題作『飛ぶ男』ではなく「併録」された『さまざまな父』(あるいは「へるめす」で連載中だった『もぐら日記』)だろう。『飛ぶ男』は未完成の遺稿である。
 それと『さまざまな父』が新潮に掲載されたのは確かだが、連載の二回目で終わってしまったので「完成された作品」ではない。文脈からして「完成度が高い」という意味ではないだろう。


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