文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
評価 : (4.0点)

 漱石嫌いは小中学校での国語の授業のトラウマもあるのかもしれない。おれは勝手に教科書に載った小説を読むだけで授業は聞いていなかったので、どういうことをやったのかはまったく覚えていないが、とにかく授業は嫌だった。
 日本の近代文学には「小品」という小説とも随筆ともつかぬジャンルがある、とこの本の解説に書いてあった。これも小品を集めたものであって、たいへんおもしろい。他にも青空文庫で『私の個人主義』なども読んでいる。やっぱり国語の授業だろう。
 これはとくに『人間』というのがいい。
――引用――
 巡査が御前は何だと云うと、呂律のまわらない舌で、お、おれは人間だと威張っている。そのたんびに、みんなが、どっと笑う。御作さんも旦那の顔を見て笑った。すると酔っ払いは承知しない。怖い顔をして、あたりを見廻しながら、な、なにが可笑しい。己が人間なのが、何処が可笑しい。こう見えたって、と云って、だらりと首を垂れてしまうかと思うと、突然思い出した様に、人間だいと大きな声を出す。
――引用終わり――
 連れて行かれるところの表現が非道いんですけどおもしろいんですね、「そうして屠られた豚の様に、がらがらと大通りを引いて行った」、それで御作さんは話の種が増えて喜んだと、それだけの話です。
 御作さんという人が旦那さんと酔っ払いを見るという日記みたいな話だけど、いわゆる三人称で書かれているんです、横で見ているような感じで。でも語り手はでてこない。
 ちなみに『人間』は青空文庫の『永日小品』で読めます。


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