八日目の蝉

『前に、死ねなかった蝉の話をしたの、あんた覚えてる?
七日で死ぬよりも、八日目に生き残った蝉のほうがかなしいって、あんたは言ったよね。
私もずっとそう思ってたけど』

千草は静かに言葉をつなぐ。

『それは違うかもね。
八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。
見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ』

秋に千草と見上げた公園の木を思いだした。

闇にすっと立っていた木に、息をひそめる蝉をさがしたことを思いだした。
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