田村はまだか (光文社文庫)
評価 : (4.0点)

題名の通り、40歳になった面々がクラス会に間に合わなかった田村を三次会会場で待つ物語。

まず、会話で使う「 」を超越した表現技法が秀逸。
口から発せられることばは、その額面通りの意味以上に、余韻や風情、間や空気を伴い、
意味以上の意味を持つことが多い。
「 」という、もはや固定観念に近いルールにとらわれることなく、
その意味以上の意味を非常に巧みに表現している。

いまひとつは、個人を特定する「名前」の指し示すところの趣。
表題にもなっている田村はもちろん人の名前であるが、
名前の持つ記号的役割以外の使命を焙り出している。
難しく書くなら「自己とは」ということになろうかと思うが、
全然堅苦しくなくさらりと、それでいて生々しく描いている描写が美しい。

生々しく描かれている、軽くない空気感やそれぞれが抱えるどす黒さや情感が、決して不快でないのは、
僕がその齢に近づきつつあるからだろうか。

面白い作品でした。


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