明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法 (アスキー新書)

コミュニケーションの諸相③「エバンジェリストへ育て上げる」
企業からの情報を伝え広めるために、エバンジェリストやロイヤルカスタマーの育成が必須だということは第4章でくわしく述べた。
彼らを育て増やすには、発信元への共感やいい商品の提供はもちろん、これから述べていくいろんな方法がすべて必要なのだが、特に「彼らとの直接の対話と絆づくり」は重要になってくる。
それはいわゆる「ソーシャルメディア施策」と呼ばれるもので、ツイッター・アカウントを取って生活者たちと対話を始めるところから、フェイスブックページやミクシィのコミュニティ管理、ユーストリームなどでのリアルタイムの共有にいたるまで、様々な方法があり、日々新しいツールが出てきている分野でもある。
それらを駆使して彼らに対するおもてなしを繰り返し、ソーシャルメディア上もしくは自社サイト上でロングエンゲージメントを築いていく。そして、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を上げていくのである。
このときのスタンスとして、往年のサントリー・レッドの名コピーが大きな示唆を与えてくれる。合言葉にしてもいいくらいだ。
「すこし愛して、なが~く愛して」
これこそがロングエンゲージメントだろう。
なお、企業が彼らと向き合ってつきあうとき矢面に立つソーシャルメディア担当者(カスタマー部門など)は非常に大切だ。
ターゲットと近い年齢の(つまり価値観が近いタイプ)、ソーシャルメディアをよく知っていてセンスのいい担当者の存在が必須なのである。
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コミュニケーション・デザインの諸相②「いい商品・サービスの提供」
情報を伝え広めるために、商品力はまず磨くべき大切なポイントだ。
ソーシャルメディア全盛時代、企業自身が生活者に共感される活動をしているかどうかが大切になる。その一番の部分はやはり「本業」だろう。平たく言えば「いい商品やサービスを提供しているか」である。いい商品も作らずに、コミュニケーションばかりうまくても誰も信用しないし、逆にいい商品さえ作れば、関与する生活者が自らそれを広めてくれるのだ。
では、この時代「いい商品」とは何か。
ボクはポイントは3つあると思っている。「商品自体に共感を纏わせること」、「透明性が確認できること」、そして「生活者自身を商品開発に参加させること」の3つである。つまり、商品自体が「共感」と「確認」と「参加」というSIPSのプロセスとして機能することである。
「商品自体に共感を纏わせること」とは、要するに商品自体がSIPSの起点になることに他ならない。商品自体に「生活者が共感する要素」があるので、自然とSIPSの流れに乗っていく。
たとえばアップルの「マックブックエア」は「世界で最も薄いノートブック・コンピュータ」という共感を押し出した。もしかしたら日本のメーカーの商品の方が機能的には優れているかもしれない。スペックが最高のものをあれもこれも入れ込むからである。でも、ある部分に特化した商品の方が共感度が高くなるのだ。
この場合、ソーシャルメディア上で何が「共感」や「参加」を呼ぶかを理解した人間がその商品開発プロセスに加わり、商品自体に魅力を付け加えることが役に立つ。メーカー視点ではなく生活者視点の人間が入ることが大切だ。
二つ目の「透明性が確認できること」とは、トレーサビリティーや商品開発過程の透明化だ。これはSIPSにおける「確認」を容易にし、とても共感されやすくなる。
最後の「生活者自身が商品開発に参加させること」は、いわゆるクラウド・ソーシングという形態がイメージしやすいと思う。たとえばスターバックスは、ソーシャルメディア上で生活者の意見をオープンに募集し、店の改良をしたり商品開発したりしているが、それらに加わった人たちはいきなりエバンジェリストになり、友人・知人に「私の意見が通った商品だ!」と伝えたりする。その「参加」はハイパークチコミを起こす可能性が高い。
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人と人のつながりの中に入っていくときの企画のポイント
どこかのパーティで知り合った人から連絡があり、飲むことになった。友人も紹介してほしいというので、いつも仲間と飲んでいる会に呼んであげることにした。
彼はなかなか話し上手で面白い。気遣いもありなかなかデキる男な感じ。場はいい感じで盛り上がった。さんざんいろいろと話して仲良くなり、じゃあまたなと別れようとするとき、「実は」と彼が切り出しにくそうに話しだした。「保険に興味ないかな?」
保険の勧誘かよ!場が急に白ける。あなたが保険屋さんなのは最初から知ってたけど、いまそれする!?結局それが目的!?いままでの愉快な時間もそのため!?
これでは誰も保険なんかに入ってくれない。
では、彼は果たしてどうすれば良かったのだろうか。
もっと時間をかけて親しい関係になるのを優先すべきだったのである。
もっと時間をかけて親しい関係になって、信頼関係をきちんと築くべきだったのである。そうしてボクらが「どうせ保険に入るなら彼から入ってやろう」「彼も最近営業成績で困っているらしいから、助けるつもりで入ってやろう」「いや、こんないいヤツ、もっと積極的に応援してやろうよ。他の友人にも薦めてやろう」と思うまで、ロング・エンゲージメントすべきだったのである。
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エベレット・M・ロジャースの「イノベーター理論」
①イノベーター(革新者)2.5%
②アーリーアダプター(初期採用者)13.5%
③アーリーマジョリティ(前期追随者)34%
④レイトマジョリティ(後期追随者)34%
⑤ラガード(遅滞者)16%

①が「アクティブ関与層」、②が「潜在関与層」、③が「プチ関与層」
日本の人口の2割がソーシャルメディアを利用しているとして、その中の2.5%、つまり日本の人口の0.5%くらい(60万人くらい)しかアクティブ関与層はいないことになる。テレビの視聴率だったら番組打ち切りの数字である。
でも十分な数なのである。なぜなら彼らは、潜在関与層、プチ関与層を巻き込みつつ社会や文化に大きく影響を与える。そして、残りの人々にも確実に影響を与えていく。
そして、その影響はリアル世界まで広がっていく。起点は小さくても、影響力は甚大なのである。
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